アバウト・タイム

(C)Universal Pictures


『アバウト・タイム:愛おしい時間について』
監督・脚本:リチャード・カーティス「ラブ・アクチュアリー」
出演:ドーナル・グリーソン、レイチェル・マクアダムス、ビル・ナイトム・ホランダー、マーゴット・ロビー、リンゼイ・ダンカン
原題:ABOUT TIME
/ イギリス映画 / 2013年 / 124分 / カラー /ネスコ / ドルビーSRD  ユニバーサル映画  配給:シンカ / パルコ © Universal Pictures
HPhttp://abouttime-movie.jp/

『アバウト・タイム:愛おしい時間について』:もし過去に戻れたならば?

                           清水 純子

「過去に戻れたらいいな、あの時ああしていたら、あの時あんなことを言わなければ~~今のわたしはこうじゃなかったのに」と思ったことはないだろうか?
そう思ったことがない人はいないでしょ?

「過去をふりかえるな!」、「すんだことをくよくよするな!」、「『もしも』はなしだ」と周りから言われたことはないだろうか? 日本語では「覆水盆に返らず」、英語では “It’s no use crying over spilt milk”るいは “What’s done is done” ということわざが、仮定法過去完了の欲望――「もしも~であったならば」あるいは「もしも~でなかったならば」――を戒めている。
この禁じられた「過去に戻りたい欲望」を肯定する映画が現れた。
アバウト・タイム:愛おしい時間について』は、過去にタイム・トラベルして時間を取り戻し、今の自分とは違う自分、現在とは異なる結果を演出する超能力がある男性の物語である。

21歳になったティム(ドーナル・グリーソン)は50歳で突然大学教授の職を辞した父(ビル・ナイ)の部屋に呼ばれて一家の男性に伝わる超能力について明かされる。

Tim’s father: This is an odd moment for me because I had the same moment with my father when I'd just turned 21,and after it, my life was never the same, so I approach it pretty, um, nervously. Okay. When you're ready. It's allvery mysterious. Right. Tim, my dear son, The simple fact is the men in this family have always had the ability to...This is going to sound strange, be prepared for strangeness. Get ready for spooky time, but there's this family secret.And the secret is that the men in the family can travel in time.
Well, more accurately, travel back in time.We can't travel into the future. This is such a weird joke. It’s seriously not a joke. Although it's not as dramatic as it sounds. It's only in my own life. I can only go to places where I actually was and can remember.I can't kill Hitler or shag Helen of Troy, unfortunately. . . . The "How" is the easy bit, in fact. Yougo into a dark place, big cupboards are very useful generally. Toilets, at a pinch. Then you clench your fists like this. Think of the moment you're going to and you'll find yourself there.

ティムの父親の英語を要約すると、ティムの一族の男性は皆、過去にタイム・トラベルする能力を持っている。未来を覗くことはできないが、自分自身の過去に戻れる。暗い所で、両手のこぶしを握り締めて、戻りたい時を思い浮かべさえすればいい。僕も21歳の時におやじからこの秘密のタイム・トラベルの超能力について明かされて驚いたが本当なのだ、ということである。
ガールフレンドのいないティムは、この超能力を理想の女性を拉致するために用いようと決心する。弁護士になったティムは、ロンドンのバーの真っ暗闇でのダブル・カップルによる文字通りブラインド・デートで、メアリー(レイチェル・マクアダム)と出会う。

外に出てメアリーを一目見たティムは、彼女こそ探し求めていた女性だと確信する。
女性に慣れないティムは、タイム・トラベルの能力を駆使して、幾度も過去に小刻みに戻り、自分の不細工な言動に修正の上に修正を重ねて、なんとかメアリーとの同棲にまでこぎつける。
ティムは、失言をしてメアリーの機嫌を損ねたり、場がしらけると、そのたびに戸棚やトイレに駆け込んで念力で過去に戻る。
滑稽なことに、戻る過去のタイミングがちょっとずれただけで予測不可能な事態がおきてしまう。
すでにメアリーに彼氏ができていた、寝室でブラジャーのホックが前開きであることを知らずに戸惑う、はじめてのセックスがへた、突然訪ねてきたメアリーの両親に「いえ、オーラル・セックスはしていません、誓って」と失言――これらすべての失態をティムは過去に舞い戻ってより良い行動へと上塗りしていく。
ティムは書いた文字を消しゴムで消して書き換えるかのように、過去を推敲して自分にとってより有利な結果に書き換えて現在を構築する。
能力のおかげで、ティムはあこがれのメアリーと生まれ故郷のコーンウォールで結婚式をあげて、女の子に恵まれる。

ところが問題発生! 飲酒運転で事故を起こし怪我をした妹のキット・カットを助けようとタイム・トラベルしたら、ティムの金髪の長女が黒髪の見たこともない男の子に変わってしまったのである。
父から「ごめん!言い忘れたけれど、子供が生まれてからのタイム・トラベルは、子供の遺伝子を変えてしまうので有効とはない」と言われ、ティムは超能力に限界があることを知る。
愛の父を癌で失ったティムは、子供が生まれる前の過去にたびたび戻り、父と卓球をして楽しんだが、さらなる問題が起きる。アリーが三人目の子供をほしがったのである。
の子が生まれると、ティムは過去にのみ存在する父とは今までどおりには会えなくなる。
去に戻ることよりも、現在を大切に生きることの重要性をティムは感じる。
父も新しい命の誕生を望んでいることを知り、ティムは今後タイム・トラベルはせずに、一日一日を大切に前を向いて歩くことにする。

監督は、『Mr.ビーン』(1982年、製作、執筆)、『ノッティング・ヒルの恋人』(1999年、執筆)、『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001年、 脚本)、『ラブ・アクチュアリー』(2003年、 脚本、監督)で名高いニュージーランド生まれのリチャード・カーティスである。

作が監督引退作だそうだが、数々の明るくペーソスのあるロマンチック・コメディを生み出してきただけに、これで本当に終われるとは思えない。

3Dなどの技術を不必要なまでに駆使した映像、目をそむけるような残酷な映像、ポリティカルな発言や実話が大手を振って歩く映画界で、肩の力を抜いて安心して楽しめる映画の存在は重要である。
美しい英国の自然や風物、美しい女性たちと彼女らが身に着けるファッションのセンスも目の保養になる。
メアリーがさりげなく持つ黒い小物のバッグ、ざっくりした毛糸で編まれた赤いセーターなどもかわいい。
驚いたのは、結婚式で新婦のメアリーが真っ赤なドレスをまとっていたことである。
ウェディング・ドレスは「白」という固定観念を持つ人も多いだろうが、こういう手もあったのか!と気づかされる。
の一方で新婦の友人の女の子は、白いレースのドレスを着て、靴はなんと白いスニーカーを履いている。
気取っているようで、微妙にくずしている英国ファッションのおもしろさもこの映画の魅力であろう。

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