あやつり糸の世界藤田

(C)1973 WDR (C)2010 Rainer Werner FassbinderFoundation der restaurierten Fassung

『あやつり糸の世界』(原題Welt Am Draht/ World on A Wire
制作年:1973年/ 制作国:西ドイツ/ 本編尺: 第1部105分、 第2部107分
監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー Rainer Werner Fassbinder/
脚本:フリッツ・ミュラー=シェルツ Fritz Müller-Scherz、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー Rainer Werner Fassbinder/ ダニエル・F・ガロイの小説『模造世界(原題:シミュラクロン3)』に基づく Daniel F. Galouye "Simulacron-3"/
キャスト:クラウス・レービッチェ:フレッド・シュティラー博士/マーシャ・ラベン:エヴァ・フォルマー /
カール=ハインツ・フォスゲラウ: ヘルベルト・ジスキンス所長/ アドリアン・ホーフェン:ヘンリー・フォルマー教授 /バルバラ・バレンティン:グロリア・フロム 他

『あやつり糸の世界』――未来社会をあやつるコンピューター
                            藤田 久美子

『あやつり糸の世界』は、実際、なかなか難しい内容であった。人物関係やコンピューター関係の概念など、複雑である。特に第一部が複雑に作られているという印象を強く受ける。二部の方が核心に迫っていて、美しい女性たちも重要な役で登場し、さらに、意味深のデカダン的場面、音楽(歌)等を楽しめる。この映画はSFの系譜に入るのだろうが、決してそれだけではない。SF映画は、もともと単にSF的内容を描くにとどまらず、必ず何らかのメッセージを含むものなのであろう。『ブレード・ランナー』、『ガタカ』、その他等優秀なSF作品には、そういうことが言える。

未来社会を予測しようとする企てはそれ自体悪いことではないけれども、我々が生きている現実の世界で、敢えて仮想空間を作り、その中で人間を作り上げ、人間の生き方や心を左右しようとするのは、明らかに行き過ぎである。今日、ゲームの中ではとっくに行われていることを、この映画は予見しているが、ただそれだけではない。“コンピューターの機能を最もよく操れる人間が、それ以外の人間を支配する世界”というものは、すでに到来している。そうしたかつての全体主義の体制を思い出させるような世の中に対して、この映画は“No!”と言っているのではないだろうか?“存在論の問題”も語られ、その問題を監督はどう考えるのか、という問題もある。

しかし、これはやはり、“仮想空間の中での人間、その他の存在”と“本当の現実を生きる人間”との比較の意味で、出てきたものなのではないだろう? 単なる哲学的議論にとどまらず、この映画から40年以上経ち、日常的にパソコンを使い、パソコンから多くの情報を得ている私たちは、もしかしたら、“自分の人生を生きている”と思いながら、実際は、この映画のように、何者かに操られているのかもしれない。この映画を見ると、その可能性は大だと思わざるをえない。

©2016 K.Fujita. All Rights Reserved. 26 June 2016

 

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