ボブという名の猫  幸せのハイタッチ(清水)


『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』
原題 A Street Cat Named Bob
配給:コムストック・グループ
8月26日(土)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国公開
監督:ロジャー・スポティスウッド/製作総指揮:ポール・ブレット、ダミアン・ジョーンズ、ローラ・デイヴィソン
出演:ルーク・トレッダウェイ、ジョアンヌ・フロガット、ルタ・ゲドミンタス、アンソニー・ヘッド /
2016年/イギリス/英語/103分/  配給:コムストック・グループ 提供:テレビ東京、テレビ大阪、コムストック・グループ 

© 2016 STREET CAT FILM DISTRIBUTIONLIMITED ALL RIGHTS RESERVED.


『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』――住居が結ぶ一人と一匹 
                            清水 純子


生き物にとってたいせつな住居
 『ボブという名の猫』は、住居が人間にとっても動物にとってもいかに大切なものであるかを思い知らせてくれる。住まいの獲得は、食べ物の捕獲と等しく生き物の生存を守り、決定する主要なファクター(要素、要因)である。一般に栄養源がなければ生命を持続できないことは容易に理解されるが、棲み家なしに動植物が生命をつなぐことがむずかしいことは意外に見落とされている。人間にはホームレス、路上生活者、猫では野良猫と呼ばれる家を持たないで生活する種族が存在するが、彼らは住処を獲得しているものたちに比べて、一般的に社会的にも文化的にも経済的にも弱い立場にある。住居の役割は、厳しい自然環境、猛獣などの外的から守り、快適な生活を可能にする装置だからである。

住居がもたらした幸せと繁栄
 『ボブという名の猫』は、路上生活者のジェームズと野良猫ボブが、共通の住居を得て幸運をつかみ、社会復帰と名声を獲得する物語である。
 ロンドンのコヴェント・ガーデンでストリート・ミュージシャンをしている若者ジェームズは、ジャンキー(麻薬常用者)で路上生活者である。ギターを片手に路上で自作自演の歌を披露して小銭を恵んでもらう、その日暮らしである。レストランで食事をするほどの稼ぎはなく、ごみ箱から残版を漁り、住む家はもちろんない。ジェームズは、ドラッグの厚生プログラム中でだが、誘惑に負けてヘロインに手を出し、救急搬送されて命をとりとめる。心配した更生担当者のヴァルに住居を提供され、セカンドチャンスにかけるジェームズのもとに、手負いの野良猫のボブがやってくる。茶色のトラ猫のボブは、人なつっこく、怪我を直してくれたジェームズの後をついて回る。バスに飛び乗ってあとを追うボブを振り切れないジェームズは、路上演奏中もボブを傍らに置く。愛くるしいボブに注目する観客が、あっという間にジェームズの周りに集まり、ジェームズの音楽も評判を呼び、稼ぎは倍増する。猫を肩に乗せて演奏する男としてジェームズとボブは雑誌に載り、一躍有名になる。ジェームズの路上のライヴァルとのトラブル、猫のボブと犬との対決、ボブの失踪を経験した後、元宿無し族の一人の男と一匹の猫は再会する。ジェームズは猫のボブから勇気を得て、麻薬の禁断症状を克服し、絶縁状態だった父と和解する。野良猫ボブの助けによって社会復帰を果たしたジェームズは体験談を出版して、一躍成功者になり、持ち家を獲得し、猫のボブと幸せに暮らしを得る。

犬型猫、長靴をはいた猫ボブ
 全世界に猫ファンは多い。猫は散歩させなくていい、人にかみつかない、神秘的、貴族的、家の中で置物のようにちんまりと座っている、むくむくしてすました姿が愛らしい等、様々な理由で、近年、犬よりも愛玩動物としての人気は高い。
「犬は人につき、猫は家につく」という。猫のボブもまずはジェームズの家にやってきたのだから、最初は猫の本性を発揮したのかもしれない。しかし、その後のボブの行動は猫的というよりも犬的である。ジェームズの行く先々をついてまわったあげく、ジェームズの相棒として肩に載ってストリートに出勤して共に稼ぐ相棒に成長する。買い物も家での生活も一緒である。ボブはジェームズの仕事仲間であり、家族であり、最大の理解者にしてヘルパーである。主人の出世を助ける猫ボブは、シャルル・ペローの童話「長靴をはいた猫」の利口な主人思いの猫を連想させる。そんな賢い、表情豊かな猫が現実にいるのかと思ったが、ジェームズとボブの物語は実話だそうである。ジェームズは自分の思いを猫に投影させたのだろうが、猫もジェームズの気持ちに応えたのである。人の気持ちを察することができて、人になつくという点で、ボブは犬っぽいけれど、そういう猫もいるそうである。ボブは、最初から野良猫だったのか? ひょっとしたら飼い主からはぐれた迷い猫あるいは捨て猫だったかもしれないと思わせる。

はぐれもの同志の友情
 ジェームズとボブは、家のないはぐれもの、確固たる生活の場を持たない迷いもの、という共通点を持っていた。種の違いを超えた共感がたぐいまれなマッチングによる共存と協力のハーモニーを生み出し、ジェームズとボブをスターにしたのである。

ニャンと可愛い猫だワン
ボブは長靴をはかず、マフラーを巻いた猫であるが、本当にこんなあっぱれな愛おしい猫っているのですね。猫好きならずともボブの素朴な愛らしさに頬の筋肉がゆるみっぱなしである。猫好きにとっては、これはもうたまらない映画である。ボブのふわふわした毛に触って、だっこしたくなる。ニャンと可愛い猫だワンとうならずにはいられない。
 住居こそが、ジェームズと猫を引き合わせ、仲を取り持った仲人だったのである。

©2017 J. Shimizu. All Rights Reserved. 2017. July 11.

© 2016 STREET CAT FILM DISTRIBUTION LIMITED ALL RIGHTS RESERVED.



50音別映画に戻る