ブリジットジョーンズ3

(C)Universal Studios.

『ブリジット ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』(原題Bridget Jones's Baby
製作年2016年/ 製作国 イギリス / 配給 東宝東和 /
スタッフ: 監督シャロン・マグワイア/ 製作ティム・ビーバン、エリック・フェルナー、デブラ・ヘイワード、ヘレン・フィールディング
キャスト:レニー・ゼルウィガー:ブリジット・ジョーンズ/コリン・ファース:マーク・ダーシー/パトリック・デンプシー:ジャック・クワント/ジム・ブロードベント:ジェマ・ジョーンズ/
2016年10月29日(土)全国ロードショー/
オフィシャル・サイト:http://bridget-jones.jp/

『ブリジット ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期』――
この子誰の子? 43歳でママになる?

                             清水 純子

B.J. がママに!花嫁に!
 『ブリジット ジョーンズの日記』シリーズの第三作目では、ブリジット・ジョーンズ(以後B.J.)は、御年43歳、相変わらずシングルで男っ気なし。
 誕生日には、野暮ったい暖色系のパジャマ兼用室内着を着て、アパートのソファーに一人ちんまりと座り、大きな蝋燭を一本だけ立てた小さな紅色のカップケーキのお皿を手にして、ため息まじりに一人で祝う――あたしは賞味期限切れの売れ残り、負け犬だけれど、43歳になったなんて誰も知りゃしないと。ところが職場では43本の蝋燭を立てた巨大なケーキが突如出現して、スタッフ一同「43回目のお誕生日おめでとう」の大合唱。 43本の蝋燭なんて一息で消せないとぼやく、おとぼけB.J. は、嬉しさ半分、恨めしさ半分。  
 B.J. と愛し合ったマイクは今や妻帯者、プレイボーイのダニエル・クリーバーに至っては、飛行機ごと茂みに突っ込んで昇天するという洒落にもならない死にざま。B.J. は葬式で弔辞を述べる羽目になる。B.J. の母は、子供を産む限界年齢だから精子を買って受胎したらとほのめかし、30代の同僚ミランダも男日照りは体に毒だからこの辺でやめにして!とアドヴァイスする。B.J. は託宣どおりに野外コンサートで最初に出会った見ず知らずの男とベッドイン。翌日、名づけ親役で行った教会で、名門出身の弁護士マークに再会し、これもそのままベッドイン。
 男断ちに終止符を打って爽快な気分のB.J. だったが、克服したはずの体重オーバー、ずん胴体形に逆戻り、気分もすぐれない。まさかの思いは、二作目のB.J.の時とは違って妊娠検査薬が証明、産婦人科では2か月になる我が子が子宮の中で手を振っていた。どちらの男の種かわからないが、古いコンドームのために突如母性愛に目覚めさせられたB.J. はシングル・マザーになる決意を固める。
 ワン・ナイト・スタンド(一夜を共にした行きずり)の男は、アメリカの独身大富豪ジャックだった、一方マークも離婚訴訟中の自由の身。二人の男どもは、子供の父であることを願って、B.J. 姫にかしずくナイト(騎士)のよう。息子に恵まれ、両手に男のB.J. は、天にも昇る思い、43歳のお姫さま気分、晴れてマークとヴァージン・ロードを歩き、花嫁に!
しかしその頃、あの世で見守ってくれているはずのダニエルが生きて発見された、と新聞は伝える。幸せな家庭人になったはずのB.J. の日記はこれからも続く???

おとぼけB.J.の相変わらずのユーモア
 43歳の中年女性B.J. のドジ、おとぼけ、天真爛漫さは相変わらずで、大笑いさせる。男にもてない、幸運の女神も振り向いてくれない、ふてくされB.J. だが、TV局のプロデュ―サーとして活躍している。しかし、時代の波は押し寄せ、若くて現代感覚がシャープな女性がB.J. の上に君臨する。男にも仕事のツキにも見放されつつある沈没寸前のB.J. を救ったのは、B.J. の女子力、それも妊娠という女の根本的機能にして原始的武器である。B.J. は、女に課されたこの特典にして弱点をちゃっかりいただいて最大限に生かして、人生の花を飾る。
 共感を呼ぶ笑いは、B.J. の気取らない正直さと前向きな姿勢にある。自分の弱点は素直に認め、なおかつ転んでも立ち上がって生きる現代女のユーモアのパワーに観客は魅せられる。B.J.は中年になっても、女の子のロマンティックな気分と純粋さを失わないところが可愛らしい。女も永遠の少女でいられる、B.J. を見ていると皆そう思う。
 その反面、B.J. は女としての現実も冷静に把握して、ユーモアで打ち返す――今のうちに卵子を冷凍保存したら?という提案には、私のはもうゆですぎと返答。B.J. の周りにはおかしなユーモアを振りまく人物が集まっている。ゲイ・カップルは養子を迎えるが、これが僕らの「ベイビー」ならぬ「ゲイビー」とB.J. に告げて笑わせる。B.J. の父は、突き出た娘B.J.のお腹の元がどこから飛んできたかわからないことを知っても動揺せず、「そんなもんさ、おまえだって本当にわしの子かどうかわかったもんじゃない」とうそぶく。

21世紀のアンチ・ヒロインB.J.
 B.J. は、21世紀の自立する女性のめざす理想ともがく現実を、ユーモラスに等身大に映し出す。B.J. は、21世紀のアンチ・ヒロインである。ヒロインとされる人物像は、一般的に美人で才気煥発で最後には幸福になる。それに反して、アンチ・ヒロインは、一般的に外観的にすぐれているとは限らず、一見さえないダメ人間であることが多く、正統派の生き方からはみ出しているが、思わぬところで力を発揮して観客をあっと言わせる。行き当たりばったりの気楽で気ままな無責任な性格に見えて、いざとなると火事場の馬鹿力を発揮する人物である。B.J. も凡庸な容姿とドジな性格ゆえにダメ女に見える。
 だが、職場ではいちおうやり手のTVプロデューサーであるし、いざとなると究極の女子力を発揮して、大物男性のハートを同時に射止めて離さない。そこが普通の女の子とは違う。追いつめられると強さを発揮するたちであり、普段は隠れて見えない実力を必要な時には総動員する集中力と運に恵まれている。ちょうどTVドラマ『必殺仕置人』の藤田まこと扮する中村主水が、職場では「昼行燈(あんどん)」と馬鹿にされてうだつが上がらず、家では「種無しスイカ」の入り婿として姑と嫁にいびられ続けているが、主水は闇で犯罪の仕置きを請け負う凄腕のアンチ・ヒーローである。
 B.J. は、法の逸脱に関わらないが、正統派のヒロインではなく、美女でもない外観を持つ。B.J. のおとぼけの外観は、逆に隠れ蓑になっていて、いざとなると隠されたパワーを発揮して、ヒロイン以上の成果と成功をものにして、観客の憧憬を満たす。
 その意味でB.J. は必殺仕置人的要素を持つアンチ・ヒロインであり、市井(しせい)のアイドルである。 B.J. の庶民性、気取らない外観、劣等感のかたまり現象によって親近感を呼び、観客の自己投射を可能にした後で、庶民のシンデレラとして舞い上がらせるところがこのシリーズの人気の秘密である。 B.J.は、日常的ディテールを駆使して美しくリアルにアレンジした現代の普通の女の子向けのフェアリー・テイルである。

 ママに、人妻になったB.J. は以後どう成長するのか? 死んだはずのダニエルも甦るし、今回はパパになり損ねたアメリカ人大富豪のジャックもB.J.の周辺をまだうろついている。B.J. は今後これらの男どもをどうさばいて、料理するのだろうか? 続編もまたまた楽しみである。

『ブリジット ジョーンズ』シリーズは、ごちゃごちゃ云う前に、まず見てみるべきである。百文(←百聞)は一見にしかず!である。

©2016 J. Shimizu. All Rights Reserved. 2016. Oct 3

(C)Universal Studios.

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