おとなの恋はまわり道(清水)

『おとなの恋はまわり道』原題Destination Wedding/ 製作年 2018年/ 製作国 アメリカ/ 配給 ショウゲート/ 上映時間 87分/ 映倫区分R15+/ オフィシャルサイト/
スタッフ:監督ビクター・レビン / 製作 エリザベス・デル、ゲイル・ライオン、ロバート・ジョーンズ/製作総指揮 ウェイン・マーク・ゴッドフリー/
キャスト:キアヌ・リーブス:フランク/ ウィノナ・ライダー:リンジー/
2018年12月TOHOシネマズシャンテ他全国公開


『おとなの恋はまわり道』――芸達者なキアヌとウィノナの二人芝居

                                   清水 純子

 キアヌ・リーブスは、無口な人だと思っていた。ところがこの映画でのフランク役を得て、喋るわ、喋るわ、舌がもつれても不思議はない猛烈なスピードで難しい理屈をこねて、1時間半の間、息もつかずに立て板に水のような饒舌でまくし立てたのには驚いた。恋人役リンジーのウィノナも、キアヌに負けず、すさまじい勢いでへ理屈をこねて応戦する。欧米人のコミュニケーションは、まず「話す」ことだと聞いていたが、ここまですさまじい会話の洪水だとは想像もしなかった。夫婦喧嘩ならばいざ知らず、これは恋愛映画なので、驚きである。
 偏屈な中年男と意固地なもう若くない女が、リゾート・ウェディングに招かれるが、飛行機の席もホテルの部屋も隣同志にさせられる。新郎は数年前にリンジーを袖にした男で、リンジーはその男にいまだに未練たっぷり。旅の連れ合いになったフランクは、新郎の腹違いの兄弟。こんなきわどい間柄なのに、フランクとリンジーは、まるで新婚カップルのように一緒の場所と席を強制されていた。いまだに独身でいる弟と元カノを心配した新郎の陰謀だったのか? 人の数倍偏屈で意地っ張りで、折れない性格のフランクとリンジーは、迷惑な運命的隣り合わせに怒りを露わにして、お互いにかみつき合う。普通の人間だったら、なんとも思わないことがお互いに癪の種。空港での待ち行列の間に、リンジーはフランクに「親しいふりして割り込みをする礼儀知らずの野蛮人!なんでそんなことするの?」と怒ると、フランクは平然と「早く乗りたいからさ!8つしかないいい席をとるため」と答える。結局、二人は最後列の区切りのない席で寄り添って座ることになる。フランクが他の乗客に席替えを頼んでも無視されるばかり。ホテルの隣部屋で、フランクはTVに飽きてTVを消すが、リンジーの部屋からはその番組の続きが聞こえてくる。無視しようとすればするほどお互いに気になり、勝手に距離が縮まっていく二人。角を突き合わせる二人の関係が急展開するのは、林の中でチータに出くわしてしまった時。立ちすくむリンジーを守るため、フランクは得意の奇妙な喉音を発して威嚇、めでたく危機は去る。一人で逃げようとすればできたのにリンジーのために危険を顧みないフランクに、リンジーは本物の男を感じる。口が悪くて態度も横柄だけれど、本当はいい人、こんな男は二人はいないと興奮する。そんなリンジーの気持ちに反応して、フランクもリンジーに運命を感じて、二人は草原で合体する。歓喜の大声をあげながら、「男の子が欲しい?それとも女の子?」「今日は安全日よ!」としゃべり続けながら・・・
 結婚式が終わり、二人はそれぞれの家に帰っていく。住所を知らせないという約束。しかしリンジーがタクシー運転手に告げた住所をフランクは聞いてしまう。リンジーは聞かせるためにわざと大声で言ったのか? 二度と会はない二人のはずだったが、アパートでくつろぐリンジーの部屋のベルが鳴り、扉を開けるとフランクがいた。
 若い頃はアイドルだったキアヌ・リーブスとウィノナ・ライダーが大人の芸達者な役者に成長していたのはうれしい驚きだった。特にアクションが得意で『マトリックス』などのヒット作に恵まれ、東洋的神秘をたたえた寡黙な男を演じ続けてきたキアヌが、ここまで見事に多弁な役を自然体で演じ切るとは思ってもみなかった。お見事である。キアヌは、本物の役者だと感心した。
 キアヌもウィノナも劇中人物と同じく、美男美女なのになぜか独身、素敵な人だけれどやや偏屈と聞く。幾度か共演の経験がある二人だから息もぴったりで、喧嘩腰でしゃべりまくるロマンスという奇妙でむずかしい設定を難なくクリアーしたのだろう。演劇を見ているような気分にさせられた90分である。『マディソン郡の橋』のようにこの映画もキアヌとウィノナの配役で、次は舞台で見てみたいものである。


©2018 J. Shimizu. All Rights Reserved. 29 Aug 2018



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