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『ダラス・バイヤーズクラブ』原題 Dallas Buyers Club
製作: ロビー・ブレナー、レイチェル・ウィンター 配給: ファインフィルムズ
監督: ジャン=マルク・ヴァレ 脚本: クレイグ・ボーテン、メリッサ・ウォーラック
出演: マシュー・マコノヒー、ジャレッド・レト、ジェニファー・ガーナー
公式HP: http://www.finefilms.co.jp/dallas/
公式Facebook: https://www.facebook.com/pages/73071
公式Twitter: https://twitter.com/dallas_movie
『ダラス・バイヤーズクラブ』AIDSの苦悩を和らげたロン・ウッドルーフ
清水 純子
ロン・ウッドルーフは1992年にAIDSで亡くなった、享年42歳――現代アメリカでは珍しくない出来事である。
なぜロンの物語が映画化され、アカデミー賞主演男優賞と助演男優賞を獲得する話題性があるのかは、ロンのAIDS(Acquired Immune Deficiency
Syndrome後天性免疫不全症候群)発症以降の生き方あるいは死に方に鍵がある。
『ダラス・バイヤーズクラブ』(Dallas Buyers Club)は、AIDSの特効薬AZT推進派の医療チームと無認可だがより良い薬を広めるロン・ウッドルーフの闘いを描く。テキサスの電気技師でカウボーイのロンは、AIDS発症のためにあと30日しか生きられないことを突然告知される。
ストレートのロンは、AIDSはゲイの病気だと思い込んでいたので医師の言葉を一笑にふすが、図書館で注射針や異性とのセックスでも感染することを調べて愕然とする。
入院先でロンは、AIDSの特効薬として臨床実験中の新薬AZTを必死で入手した。
AZTは患者の命を縮めるが、医師団が製薬会社と結託して販売促進中の毒性の強い新薬であった。
メキシコに避難したロンは、無免許の医師から未承認の新薬を購入し、ダラスで有料の会員制「ダラス・バイヤーズクラブ」を立ち上げてAIDS患者に薬を配り評判になる。ロンの薬はたちまちFDA
の規制にひっかかり、裁判沙汰になる。
ロンは個人の健康を守る権利のために度重なる嫌がらせと法廷闘争にくじけず頑張るが、裁判に負け一文無しになる。
その後FDAは、ロンに薬の個人使用を許し、わずか30日の命のはずのロンは7年間も生き延びる。
ロンは、AIDSの死の呪いを完全に解くことはできなかったが、AZTの副作用を排した新薬によって患者の延命に寄与した。
ロンは、グリム童話「眠り姫」の12番目の妖精にたとえられる。
「眠り姫」つまり「眠れる森の美女」の祝宴に招かれなかった13人目の魔女が姫に死の呪いをかけたのに対して、まだ贈り物をしていなかった12番目の妖精が死を100年の眠りに緩和したのと同じ役割をロンは果たした。
童話と違うのは、妖精ロンにも姫と同じ魔女の呪いがかけられていた点である。
自身が死を宣告されていたロンは、死神を追い払う魔法を持たなかったが、AIDSによる死を和らげ、延命する方法を推進した。
ロンがアメリカ的である点は、新薬を無償の贈り物ではなく、有償のビジネスとして立ち上げたことにある。
生活の糧を奪われていたロンは、クラブの創設によって自分も仲間も同時に救済する現実的で合理的な手段をとった。
知恵と根性によってビジネスにも人助けにも成功したロンは、アメリカの英雄の一人になった。
ロンの生きざまは、いまだにAIDS撲滅に成功していないアメリカや世界の国々にとって賞賛に値する。
実話だとされる映画の中では、どうしてロンにAIDSの呪いがかけられたのかは明らかにされてない。
ロンは麻薬とフリー・セックスに親しんストレートの(ゲイでない)男として登場する。
しかしロンを知る人は、ロンはバイセクシュアルで、ゲイの恋人もいた(eg. Huffpost Live )と証言する。
映画ではロンは「子供もほしい」と言うが、その時すでに離婚していて娘がいたし(eg. beleifnet)、ロンはロデオはしなかったし、美人女医イブの存在は創作だ(eg.Movie
Mom ) と映画が事実をそのまま描いていないと批判する。
映画がロンをホモ・フォービア(ホモ嫌い)のストレートの男として描いた理由は憶測の域を出ないが、ゲイ中心の問題に狭めたくなかったからだとか、ロン自身が生前のインタビューでバイセクシュアルであることを隠したからだといわれるが、みまかった妖精ロンの生前の素顔をこの世の住民はもはや知るすべがない。
残念なことにAIDSの呪いは現在も世界規模で拡大し続け、もはやゲイだけの問題ではなくなった。
それだからこそ、ロンをヘテロセクシュアルな(異性愛の)男にしたてた映画は説得力を増すのである。
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AIDS関連用語(ABC順)
AIDS エイズ(Acquired Immune Deficiency Syndromeの頭文字をとった略称)後天性免疫不全症候群(ヒト免疫不全ウィルスHIV)が免疫細胞に感染し、免疫細胞を破壊して後天的に免疫不全を起こす死亡率の高い病気、1981年アメリカで最初に報告された。
antiretroviral drug 抗レトロウィルス薬、抗HIV
approve ~を正式に承認する、認可する
AZT 抗HIV薬アジドチミジン(azidothymidine、AZT)と化合物Zとの組み合わせによるエイズ治療薬
bisexual バイセクシュアル、(形容詞、名詞) 男女両性に性的に関心を持つ(人)
cell 細胞
clinical trial 臨床治験、臨床試験、「治験」とは、医薬品あるいは医療機器の製造販売に際して薬事法の承認を得るための臨床試験である。
cocaine コカイン、コカの葉から採取した有機塩基、局所麻酔剤
diagnose (病気を)~と診断する
diagnosis 診断
FDA (Food and Drug Administration)米国食品局品局、公衆衛生および市民の健
康を守るために食物、薬、医療機器、バイオ製品を取り締まる責務を持つアメリ
カ合衆国政府機関
heart attack 心臓発作
heterosexual 異性愛の
HIV (human immunodeficiency virus)ヒト免疫不全ウィルス、エイズウィルス、人の免疫細胞に感染して免疫細胞を破壊し、最終的に後天性免疫不全症候群(AIDS)を発症させるウィルス
HIV-positive HIV 陽性の、後天性免疫不全症候群(aids)の原因であるヒト免疫不全ウィルス(HIV)に感染している
HIV-negative HIV陰性の、後天性免疫不全症候群(aids)の原因であるヒト免疫不全ウィルス(HIV)に感染していない
immune system 免疫系、免疫システム、 生体が異物(ウィルスなどの非自己物質やがん細胞などの異常な細胞)を認識して殺すことによって生体を病気から守ろうとする機構
peptide T ペプチドT、HIVエンベロープに相同性を持つ8アミノ酸からなるペプチド
placebo (有効成分のない)偽薬、気休めの薬
poisonous 有毒な、毒性の(ある)
prescribe (病気に)(薬、療法などを)処方する、 ・・・の処方を書く
protein タンパク質
straight (口語) ホモ(レズ)でない
unprotected sex 避妊用具を使わないセックス、性感染症や妊娠に対して危険性
の高い無防備な性交