ディスコネクト

©DISCONNECT, LLC2013

『ディスコネクト』 (2012年)  原題DISCONNECT
製作:ミッキー・リデル  配給:クロックワークス  
監督:ヘンリー=アレックス・ルビン  
脚本: アンドリュー・スターン 
出演:ジェイソン・ベイトマン、ホープ・デイヴィス、フランク・グリロ、
ミカエル・ニクヴィスト、ポーラ・ハットン
公式 HP:http://dis-connect.jp/
公式 Twitter: https://twitter.com/disconnect_jp

『ディスコネクト』―SNSが招く人間関係の危うさ
    
                          清水 純子

『ディスコネクト』は、SNSによる交流のマイナス点を交錯する三つの物語によって描く。

SNS(Social Net Working Service)「ソーシャル・ネットワーキング・サービス」とは、特定の Webサイトのユーザー同士の個人情報の公開によるコミュニケーション促進の手助けをするインターネット上のサービスである。
会員同士が趣味、職業、共通の友人、社会生活について意見を交換し合って社会的ネットワークを作り、インターネット上のコミュニティを築く。

SNSでは共通の興味を持つ人々が集まってある程度閉ざされた空間を築くために、利用者間の新鮮で密接な人間関係が生まれる場合がある。
SNSはさまざまな可能性を持つ便利なツールであるが、使い方をまちがえると思わぬトラブルに巻き込み、悲劇のもとになる可能性がある。

SNS 交流被害の中心となる『ディスコネクト』の第一の悲話はベンの自殺である。
内気で友達のいない15歳の少年ベンは、フェイス・ブックで知り合ったジェシカ・ローニーからネット経由で彼女自身のヌード写真を受けとる。
ベンはお返しに「愛の奴隷」の文字の刺青をした自分のヌードを返信する。
しかしジェシカは実在の少女ではなく、いたずら好きのジェイソンとフライの「なりすまし」であり、二人がベンを担ぐために作成した「架空のアカウント」であった。
ベンのヌード写真は学内の不特定多数の生徒が閲覧することになり、傷ついたベンは自殺する。
父リッチは、ベンと心の交流がなかったことを反省して事実究明に乗り出し、すべてを知るが、昏睡状態のベンの意識は戻らない。

第二のトラブルは、カード詐欺である。子供を亡くし、夫との仲が冷えているシンディは、さみしさをネット上の友人男性シューマッカーに打ち明けるが、アクセスによってアイデンティティを盗まれ、夫妻のカードは知らない間に残高ゼロになる。
怒った夫は復讐にでるが、シューマッカーも被害者で彼のパソコンは遠隔操作されていたため真犯人はみつからない。

第三番目は違法セックス・サイトをめぐる物語である。女性レポーターのニーナは、未成年者の性的サービスを提供するSNSで少年カイルと知り合い、インタビューに成功する。

ニーナの取材に大手TV局が注目するが、FBIも目をつける。
FBIによって違法組織逮捕に強制的に協力させられたニーナは、カイルに罵倒され、犯罪者の一味は姿をくらます。

三つの物語の共通点は、現実の人間関係のディスコネクトの(つながっていない)状態にある。
現実の人間同士は心がつながらないので、SNSの姿の見えない気軽なコミュニケーションにはけ口を求める。
SNSのメル友は、現実の生活で直接関わりあわなくてすむので責任もないし、
見栄を張る必要もないので、ありのままの自分をさらけ出せると人は考える。
しかし、自分が裸になったからといって相手も同じだという保証はない。
姿の見えない仮想空間内交流の怖さは、アイデンティティ偽装の容易さにある。
見えない相手に対して人は勝手な空想をふくらまし、幻覚に目がくもって自分自身の姿さえも見えなくなる。
例外的に三番目にあげた性犯罪サイトでは、商売を仕掛ける側のカイルの姿だけが見える仕組みになっているが、金銭を支払う客は顔を見られないため相互のコミュニケーションは成り立たない。

アイデンティティを偽る「なりすまし」や誤ったイメージを作り出すことを防ぐためには、お互いに姿を見て会話するテレビ電話の利用が望ましい。
しかし、『ディスコネクト』を見るかぎり、SNSの利用者は現実逃避できるネット空間の気楽な心地よさに誘われて群がるのだからTV電話は好まないであろう。

『ディスコネクト』はSNSが招く人間関係の危うさを指摘するが、SNSに近寄るなと説くわけでは決してない。
ネットによるコミュニケーションなしでは、21世紀のグローバル時代を生きられないことは明白だからである。
この映画の登場人物たちは、ネット上の仮想空間の人間関係の危うさに気づいて反省した後、現実に再び目を向けてより豊かな人間関係を築こうとあらたに歩み出している点に注目したい。
文明の利器は便利であると同時に凶器にもなる。『ディスコネクト』は、便利なツールSNSを生かすも殺すも利用者の裁量と能力次第であることを認識させる必見の映画である。

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