英国総督 最後の家(清水)

© PATHE PRODUCTIONS LIMITED, RELIANCE BIG ENTERTAINMENT(US) INC., BRITISH BROADCASTING CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND BEND IT FILMS LIMITED, 2016

 

『英国総督 最後の家』
原題 Viceroy’s House/
製作年 2017年/ 製作国 イギリス/ 配給 キノフィルムズ/ 上映時間 106分/ カラー(一部モノクロ)/2.39 : 1/106分/
 5.1ch/英語、パンジーャビー語、ヒンディー語/日本語字幕:チオキ真理//配給:キノフィルムズ/木下グループ /
公式サイト
スタッフ: 監督 グリンダ・チャーダ/ 製作 ディーパック・ネイヤー、グリンダ・チャーダ、ポール・マエダ・バージェス/
 製作総指揮 キ ャメロン・マクラッケン/
キャスト: ヒュー・ボネビルマウントバッテン卿 : ジリアン・アンダーソン/ エドウィナ・マウントバッテン /
  マニシュ・ダヤル: ジート・クマール / フマー・クレイシー: アーリア / マイケル・ガンボン: ヘイスティングス・イズメイ/


1947年、イギリスからの独立前夜、混迷を深める激動のインドで歴史に翻弄された人々を鮮やかに描いた感動の人間ドラマ

二つの国が生まれる時―英国領インド最後の6か月、真実の物語
イギリスからの主権譲渡のため、新総督任命されたマウントバッテン卿、その妻と娘は、インド・デリーの壮麗なる総督の屋敷にやって来る。そこでは独立後に統一インドを望む国民会議派と、分離してパキスタンを建国したいムスリム連盟によって、連日連夜論議が闘わされた。一方、新総督のもとで働くインド人青年ジートと令嬢の秘書アーリア、互いに惹かれあう2人だが、信仰が違う上に、アーリアには幼いときに決められた婚約者がいた…



『英国総督 最後の家』――インドとパキスタン誕生の受難

                                  清水 純子


パキスタンのインドからの独立
 『英国総督 最後の家』は、二つの国、インドとパキスタン、が生まれ出る受難を如術に描く。インドが300年間の英国植民地を脱して独立達成の苦悩は周知の事実だが、インド誕生にはもう一つの大きな産みの苦しみが伴ったことはよく知られているとは言えない。それはパキスタンのインドからの独立である。インドは植民地支配から撤退する英国によって、インドとパキスタンという二つの国に強制的に分離されたのである。

イギリスの国力衰退と植民地撤退
 インドでは、英国からの独立運動を続ける中でイスラム教徒とヒンドゥ教徒の対立が厳しくなり、連日、暴動、殺戮、レイプが続発して国内の治安は大きく乱れていた。第二次世界大戦の戦勝国になったとはいえ、国力の低下を免れない英国は、もはやインド国内の暴挙を平定するだけの力を失っていた。英国は、撤退の際に混乱の続くインドを二つの国に分割することによって平和に導く作戦を開始した。この大きな使命を担うために英国からインドへ派遣されたのは、海軍元帥マウントバッテン卿であった。

マウントバッテン卿
 軍人出身のマウントバッテン卿は、ヴィクトリア女王の曾孫であり、最後のインド総督として知られる。映画によれば、マウントバッテン卿は、英国政府に忠実なだけではなく、夫人共々インドを深く愛していた。英国政府のインド分割案以外にインドに平和をもたらす方法がないことを悟った卿は、インド国内の暴動激化に伴い、予定より早くインドの二国分割実行を迫られる。インド「独立の父」と崇められるマハトマ・ガンジーは、最後までパキスタンのインドからの離脱に反対であり、愛と融和によるヒンドゥ教徒とムスリム(イスラム教徒)の共同統治を訴え続けた。しかし卿はガンジー案を無視して分割を断行せざるをえなかった。インド帝国(英国政府が直接統治した時代1858~1947のインドの呼称)は、インドの英国からの独立、そしてパキスタンのインドからの独立によって消滅する。

チャーチル元首相の秘密の分割案
 映画は、二国の境界の線引き法に頭を悩ますマウントバッテン卿も知らされていなかった英国政府の狡猾な策略を明らかにする。二つの国の分割案は、すでにチャーチル元首相が秘密裡に提案済みであり、英国に有利な線引きまでなされていた。卿はチャーチルの案に沿ったインド分割を余儀なくされる。植民地政策の勝利者として長年君臨してきた英国の政治的駆け引きの巧みさが、チャーチル案に表れていた。

映画でインドの歴史を語る使命
 映画の監督はインド系女性グリンダ・チャーダだが、チャーダの祖父母は分離独立の受難を経験した。難民キャンプの悲惨な状況など戦禍のもたらす不幸を後の世代に伝える義務を感じたチャーダは、インドとパキスタン誕生の悲話を映画化した。インドの不幸は、過去の出来事ではなく、現代に直結する問題であることを訴える。
チャーダは、映画製作に際して不思議な偶然を経験した。チャリティパーティでマウントバッテン卿の甥であるチャールズ皇太子に出会った後、原作者ナレンダール・スィンフの息子が現われた。彼は、偶然にも皇太子と同じこの映画の原作本を推薦したので、彼の映画出演を決めた。インドに関するこの映画製作を後押しするような偶然が続き、チャーダは運命的なものを感じて、ますます映画製作への意欲を燃やしたことは想像に難くない。

別離、再会の幸せ
 映画は、宗教的信条的対立による憎しみがもたらした殺戮、難民問題、別離を、1947年インドのデリーでマウントバッテン卿の秘書に抜擢されたインド青年ジート・クマールを軸に、愛と別離、そして再会の幸せを描く。
 ヒンドゥ教徒のジート青年は、かねてから思いを寄せていたムスリム教徒の美しい娘アーリアに、総督の館で再会する。アーリアもジートに惹かれているが、幽閉されて盲目になった父を抱えるうえに幼い頃からのフィアンセがいた。父の安全を第一に考えるアーリアは、ジートへの思いを絶って、婚約者のすすめるままにパキスタン人になることを選ぶ。失恋したジート青年は、さらに家族が暴徒によって全滅したことを知り、恨みから総督の家を退く。しかし、混乱の中で同胞のために働くジート青年のもとに、老婦人によって運よく命を拾われたアーリアが息も絶え絶えになって運ばれる。二度と離れないと固く抱き合う若い二人は、独立後のインドで子孫を育み、幸せな家庭を築く。国家の基礎、民族の基盤もすべて家庭にあるとチャーダ監督は考えていることだろう。


©2018 J. Shimizu. All Rights Reserved. July 7  2018

© PATHE PRODUCTIONS LIMITED, RELIANCE BIG ENTERTAINMENT(US) INC., BRITISH BROADCASTING CORPORATION, THE BRITISH FILM INSTITUTE AND BEND IT FILMS LIMITED, 2016


 50音別映画に戻る