X-ミッション

(c) 2015 Warner Bros. Ent. (c) Alcon Entertainment, LLC. All Rights Reserved

『X-ミッション』(原題 Point Break)
言語:英語    上映時間 114分   PG-12  配給 ワーナー・ブラザース映画 
スタッフ: 監督&撮影:エリクソン・コア   
脚本:カート・ウィマー  原案:リック・キング
キャスト: エドガー・ラミレス:ボーディ/ルーク・ブレイシー:ジョニー・ユタ/
テリーサ・パーマー:サムサラ/デルロイ・リンドー:ホール教官/レイ・ウィンストン:パパス  
2015年2月20日(土)より 
新宿ピカデリー、丸の内ピカデリー他全国公開<2D/3D>
公式HP: http://wwws.warnerbros.co.jp/xmission/
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『X-ミッション』――トップ・アスリートの爽快で華麗なアクション

                       清水 純子

『X-ミッション』では、FBI捜査官ジョニー・ユタが米国企業を襲撃して世界各地の貧民地区にばらまく謎のエクストリームスポーツ犯罪集団に潜入して、危険なミッションに挑む。
FBIの命がけのおとり捜査を描いた映画やTVは数多いが、『X-ミッション』のすてきなところは、目もあやな美しい、壮大な自然の中で展開される華麗なアクションを息をのむような美しさで描いた場面にある。

★モトクロス:ワサッチ山脈
冒頭場面は、美しい二人の若者がシフォン・ケーキにかかったクリームのように真っ白な雪山の上を、オートバイで空に舞い上がらんと滑走する。
崖を飛び越え、人の目が捕えられぬほどのスピードであざやかに障害物をよけていく。
画面を見つめる観客は、自分自身が猛スピードでスノー・ボードしているような錯覚にとらわれる――スリル満点の爽快さ!こんなかっこいいスポーツ、一生に一度でも体験してみたいと思わせる。
しかし、スポーツに危険はつきもの。ユタの相棒ジェフは、カーブを曲がり損ね、崖に転落寸前。
駆け寄って引き上げようと渾身の力をこめるユタ。「もっとエンジンをふかせ、絶対離すな!」という言葉むなしく、「あ~~~~」と叫びをあげて谷底に紙切れが舞うように転落していくジェフ、茫然とみつめるユタ。
虚脱状態で泣くことも忘れたユタ。
自然の偉大さに不遜にも挑戦した者への罰なのか?
7年後のユタ。ジェフを死なせたのは自分だと落ちこむユタは、エクストリームスポーツのアスリートを引退して法科大学院で学んだ後、規律を求めてFBI入りを希望する。
ユタの能力を信用しない上司は、FBIのIDを与えようとしないが、実力を証明する機会がやってきた。
軽業師のような曲芸で強奪事件を次々と引き起こして、鼠小僧のように戦利品を貧しい者にばらまく過激な組織的犯行のおとり捜査をユタはまかされる。
ユタは、犯罪アスリート集団が伝説的活動家オノ・オザキの「オザキ8」の達成をもくろむエクストリームスポーツのカリスマ、ボーディが首謀者であることを見抜く。
ボーディに接近するために、ユタは、「オザキ8」を実践中のグループに割り込み、命知らずのスポーツに次々と挑む。

★ビッグウェーブ・サーフィン:フランス領ポリネシアのチョーポー
信じられないような大波がうねるポリネシアの海で、ボーディはサーフィンに挑もうとしていた。
真っ青な美しい海が、かき氷のような白く高い波を逆立てる。
高波にさらわれずに、その波の上になんとか乗ろうとするサーファーの気違いじみた執念と勇気が画面を圧倒する。
大波に割り込んだユタは、ボーディの波を奪って自分が乗ろうとするが、失敗して海に呑み込まれ気絶したところをボーディに救われる。
ユタは、大胆さと気迫、技術の高さをボーディに見込まれて、命がけの「オザキ8」達成計画のメンバーとして迎えられる。

★ウィングスーツ・フライング「風の躍動」
オザキ8の「風の躍動」を達成するために、アスリート集団は、ウィングスーツを着て山の頂上から舞い上がり、地上の草地に着地しようとする。
6秒で風に乗らなければ墜落死という過酷なフライング・スポーツである。
高い崖から自殺するかのように身を投げると、パラシュートのようにスーツが風をはらんでふくらみ、自由自在に空中を舞う。
色とりどりのウィングスーツがムササビか蝙蝠(こうもり)のように空を旋回する様子は、鳥人になった気分である。
ウィングスーツの試練を立派に乗り越えたユタは、ボーディの信頼を獲得したと確信する。

★スノーボード「氷の生命」:イタリア近くアルプスのモンブラン
ボーディの信任を得たユタは、モンブランの険しい山肌を時速48キロから105キロメートルでの滑降に参加し、これもクリアーする。
すさまじいスピードで、裂け目や地割れがあるかもしれない雪の上を滑走する世界最高のスノー・ボーダーたち――スノーボード撮影には、7回チャンピオンに輝いたグザヴィエ・ドゥ・ラ・リュー、オリンピックの金メダリストのユーリ・ボドラドチフ、ラルフ・バックストローム、ミッチ・トッドラーなどスノーボード競技の強豪が参加する信じられない豪華さを誇る。

★フリー・ロッククライミング「六命の極意」:ベネズエラのエンジェル・フォール
「オザキ8」の7つ目のミッションは、下るのではなく「昇る」ことで ある。
世界で最も垂直度が高い岸壁としてベネズエラのエンジェル・フォールが選ばれ る。
ボーディとユタはこの頃には、対立関係になっている。
ありえない険しい絶壁を、靴を履いただけで、手の力を頼りに足場を築いて一歩一歩よじ登るチームの面々。
足場を確保できず、「あの世で会おう、すぐだ」と絶叫しながら、崖から墜落して命を落す仲間。
ここでもユタとボーティは頂上に這いあがり、勝利を確認する。
ユタは、銀行を襲うボーディ一味にFBI捜査官であることを明かし、銃を向ける。
しかし、「オザキ8」の精神に基づく8つのミッション遂行に体を張ってきたユタとボーディには、奇妙な連帯感と理解が芽生えていた。ボーティを仕留める隙があったのに、ユタはわざと逃がす。
「オザキ8」のミッションを遂行するように見せかけているユタは、FBIの任務に忠実でなければならない。
ユタはどこまでFBI捜査官でありうるのか? 
そして最後に残ったボーディは、はたして「オザキ8」のミッションを遂行しうるのか?
「オザキ8」とは、地球の自然の力を利用することによって、身体的な力と精神力を鍛え、心身が統合された究極の人格を目指すための修行である。

伝説的な環境保護家オノ・オザキのうちたてた8つのミッションとは、1.フォースの噴出、2.空の誕生、3.大地の覚醒、4.荒れ狂う
5.風の躍動、 6.水の生命、7.六命の極意 8.究極の信頼 である。
「自然に敬意を表する」オザキ哲学実践のためにボーディらの一団は、時と場所を選んでエクストリーム・スポーツを実行する。また「地球のすべてのエネルギーと交流する」ことをよしとするオザキは、自然から得たものは自然に返す主義である。
その考えに基づいてボーディの犯罪グループは、金銭欲のために自然環境を大きく破壊するとされるアメリカ国籍の有名企業を狙いうちする。彼らの目的は、オザキの哲学の実践であり、金銭ではない。したがって彼らは、環境破壊の元締め企業を襲い、破壊が終わるとその企業が生み出した富を自然と共に生きている人々の元に還元する。

『X-ミッション』が爽やかで壮大に感じられるのは、美しい自然のためばかりでなく、自然に敬意を払い、自然を守るという環境保護の精神が反映されているためかもしれない。犯罪アクション映画に登場する犯罪者の目的は、常に金銭がらみであり、必ず怨恨が関わっている。それに対して『X-ミッション』の犯罪の動機は、金銭ではなく環境保護の精神である。
ボーディの一味の環境的・倫理的に有害である鉱山の破壊は、犯罪行為ではある が、筋が通っている。

『X-ミッション』は、キアヌ・リーブス主演の『ハートブルー』(原題: Point Break,1991)のリメイクだが、CGなしの人間による生のアクションによって撮影された。
俳優陣、各分野で第一人者のスタントマン、撮影スタッフの間に一人も死者が出なかったということもすごい。
『X-ミッション』のエンド・ロール(映像作品の最後に出演者・制作者・協力者などの氏名を流れるように示す字幕、スタッフ-ロール)が非常に長いのは、関わった人々の多さと多彩さを物語っている。

アメリカの映画会社(ワーナー・ブラザーズ)ほどの資力がなくては『X-ミッション』のような豪華で美しい映画は作れない。
『X-ミッション』は、「私って、こういうの好きじゃない」とか「苦手」という人が少ない全方向から支持される、誰が見ても感動できる映画である。

©2016 J. Shimizu. All Rights Reserved.   2016. Feb. 3