フライ

『Fly!フライ』原題Migration
2023年製作/83分/G/アメリカ/ 配給:東宝東和/
劇場公開日:2024年3月15日/ オフィシャルサイトhttps://fly-movie.jp/

スタッフ:監督 バンジャマン・レネール/ 共同監督 ガイロ・ホムシー/ 製作 クリス・メレダンドリ/
脚本 マイク・ホワイト/ 編集 クリスチャン・ガザル/

キャスト: 父ガモ・マック:マッククメイル・ナンジアニ/ 母ガモのパム: リザベス・バンクス/
兄ガモのダックス:カスパー・ジェニングス/妹ガモのグウェン:トレシー・ガザル/カモのダンおじさん: ダニー・デヴィート/ サギのおばさんエリン: キャロル・ケイン/アヒルのヨガインストラクターのグーグー:デヴィッド・ミッチェル/ オウムのデルロイ:キーガン=マイケル・キー/NYハトのリーダーチャンプ: オークワフィナ/


『Fly!フライ』―—カモ一家の大冒険
                             清水 純子

面目躍如たるアニメ
映画 『フライ』 の試写状が東宝東和から届いた時、「な~んだ、子供向けのアニメ
じゃない? でもせっかくだから行こうか」 と期待せず軽い気持ちで出向いた。 大きな思い違
いだった! 映画 『フライ』 は子供向けだが、大人も巻き込んでわくわくさせる、退屈する隙
のない、際立ってすぐれたコンピュータ・アニメーションである。その見事さは、ウォルト・ディ
ズニーの 『わんわん物語』 や 『眠れる森の美女』 を鑑賞した幼い日の驚きを彷彿させるものだっ
た。世の中にこんなに見事な動画――動物なのに人間を連想させる動きと表情、リアルで流
麗なラインを持った創作物――が存在することが驚異だった。こんなすてきなアニメを制
作しえたアメリカはなんてすごい技術と文化を持った国なのだろう、と尊敬とあこがれの念を
禁じえなかった。 『フライ』 は、何十年も前のアメリカの躍如たる面目を復活させたといって
よい。しかも当時のテクニックを進化させ、テーマをよりグローバルに広げて世界に向かって
広く大きく羽ばたいている。

アメリカ的でありながらグローバルなテーマ
 『フライ』は、非常にアメリカ的である。ニューイングランドの小さな池に住むカモの一家が、飛来した渡り鳥に啓発されて、平和で豊かだが狭い住処を出て、カリブ海の楽園ジャマイカまで旅する物語である。
このカモ一家の行動には、自分の持つ力を最大限に発揮して、より豊かで充実した生活を追求し続けるアメリカの成功の夢、つまり「アメリカン・ドリーム」の反映が見られる。なに不自由なく安泰に暮らしていける故郷の狭い枠組みから一生出ることなく生きていけるはずなのに、長男ダックスが渡り鳥の女の子に惹かれてから、より自由に羽ばたける楽園への野望を抱く。一家の安全を願う父マックは強硬に反対するが、母バムと末っ子グウェンの強い希望に逆らえず、また孤独に孤食を続ける伯父ダンの姿に思うところあって、一家あげての長距離移動を決意する。マックの心の中に渡り鳥としての本能が呼び覚まされ、高い文化と手あつい自然環境保護の恩恵を受けてきた故郷を出る。原題Migrationは、移住の意味なので、欧米大陸から困難を乗り越えて「移住」してきたアメリカ人先祖の魂を思い出させる。移住の途上で、そして移住後も自然と戦って、自然にうちかって生き延びたアメリカ人の「開拓者魂」が、カモ一家のDNAにも埋め込まれている。天敵である老いさらばえたサギをやりすごし、最大の脅威である人間のシェフの魔の手を知恵と勇気ですり抜けて「約束の地」ジャマイカに到達したカモ一家の物語は、アメリカ移民(migration)の苦悩と成功を反芻する。

 カモ一家がスラム地区の戦闘的なハトたちと和解して協力を得、カルト集団まがいのアヒルたちを仲間に、ジャマイカ生まれのオウムを籠から解放して案内役に仕立てて、全員で宅園ジャマイカに向かう姿は、現代アメリカの目指す理想を体現する。先住民ネーティブアメリカンを抑えてアメリカに住み着いた白人は、本国イギリスの圧力を排して独立を勝ち得た後、黒人奴隷を従えた、様々な問題に苦悩するが、奴隷解放宣言の後、アメリカ市民としての権利、平等と自由を保証して共棲の道を行く。滅ぼしたネーティブ・アメリカンへの謝罪と融和、難民受け入れによって、ますます様々な人種、民族を得て世界の大国として君臨するアメリカを象徴するのがニューイングランド発祥のカモ一家である。

 21世紀アメリカは、様々な問題を抱えて苦悩するが、それでもアメリカ的価値観、つまり「アメリカの夢」の信頼、富と幸福の追求、進取の気性の尊重は衰えていない。離婚による家庭の崩壊が多く見られるが、アメリカの本来の理想は 『フライ』の一家である。このカモ一家が「失われた夢」にならないよう奮闘中なのがアメリカ社会の現実と言っていいかもしれない。 

 しかし難しいことはさておき、映画 『フライ』 の鮮やかでのびやかな美しい映像とユーモア一杯の冒険談を人間一家で楽しんでほしい。

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