ヒューゴの不思議な発明

ヒューゴの不思議な発明』

原題 Hugo  製作年2011年/製作国アメリカ/ 配給 パラマウント/上映時間 126分 /映倫区分G /上映方式 2D/3D /
スタッフ:監督マーティン・スコセッシ /製作グレアム・キング/ティム・ヘディントン/マーティン・スコセッシ/ ジョニー・デップ
キャスト: エイサ・バターフィールド /クロエ・グレース・モレッツ/ サシャ・バロン・コーエン/ ベン・キングズレー /ジュード・ロウ
Youtube HP:https://www.youtube.com/watch?v=UXgYiwBAbHA

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ヒューゴの不思議な発明』-- 機械人形が仕掛ける愛

         清水 純子

『ヒューゴの不思議な発明』では、機械文明の中心にフランスのジョルジュ・メリエスを据えている。
世間から忘れられた映画の天才メリエスを再認識させ、メリエス・ブームに火をつける導線になるのがメリエスが制作した機械人形(アンドロイド)である。

映画『ヒューゴ』では、壊れた機械人形をめぐる愛の世界が展開される。第一番目は、父子間の愛である。
13歳の少年ヒューゴは、アンドロイドの修理法を記した亡き父の大切なノートを罰としておもちゃ屋のパパ・ジョルジュに取り上げられる。ヒューゴのノート奪還の執念は、ロボット修理が父に対する愛 の絆であり、愛の証だと信じるからである。

第二は、ヒューゴと少女イザベルが育む幼い愛である。パパ・ジョルジュの養女イザベルは、ヒューゴの熱意に動かされて、友愛とも恋愛ともいえる愛を感じ、機械人形の修理に手を貸す。
イザベルが持っていたハート型の鍵を差し込むとアンドロイドは再稼働して、映画「月世界旅行」の絵とジョルジュ・メリエスのサインを描き出す。
パパ・ジョルジュは、映画製作者、SFXの生みの親として名高いあのジョルジュ・メリエスだったことがここでわかる。

第三はメリエス一家の映画への愛である。
今から約120年前に生まれた映画に惜しみない愛情を注いだ映画人メリエスと妻で女優のママ・ジャンヌは、映画製作方法の変化についてゆけなくなったと感じて、映画への愛を封印した。
メリエス家の養女イザベルが映画鑑賞を禁じられたのは、メリエス夫妻の映画に対する失恋の思いゆえだった。
機械人形と奇術に造詣が深いメリエスは、シネマトグラフをカメラに改造して、演劇的手法を取り入れた映画製作を始めたが、撮影術の変化および大手資本の参入などの諸事情に対抗できず、引退した。
しかし、ヒューゴが甦らせた機械人形が明かす秘密のメッセージは、メリエスこそが映画の夢の紡ぎ手であることを告げた。
メリエスは、ヒューゴ少年の機械技術によって、映画への愛を復活させ、再び世間の注目を浴びることになる。

映画『ヒューゴ』の時代背景1931年は、機械産業の興隆期である。
19紀前半までにヨーロッパ各地に広がった産業革命以来、機械による大量生産が行われ、近代資本主義が誕生し、映画という機械芸術も大衆の娯楽産業として定着し始めた。
才能ある人々は機械を使った発明の夢と野心をふくらませた。
その一方、チャップリンの『モダン・タイムズ』では、機械化が人間性を奪い、人間が機械の奴隷になるマシーン・エイジが風刺的な社会批判として描かれているが、『ヒューゴ』からも機械の世界と産業社会の搾取は、労働者階級に属する少年ヒューゴの置かれた劣悪な状況と駅に出没する着飾った裕福な人々の暮らしぶりの対比に表れている。

しかし、映画『ヒューゴ』は機械文明を肯定的にとらえている。
映画『メトロポリス』(1926年)のアンドロイドはマリアを思わせる一台の機械人形だが、その冷たく、硬質な外見にもかかわらず、人間同士の心をつなぎ、温める。フリッツ・ラング監督が産出したアンドロイドのマリアは、美しい労働者階級の娘マリアの偽物として労働者を誤った方向に煽動するために支配者階級が送り込んだ魔女であり、娼婦に豹変する機械人形として描かれている。

だが、映画『ヒューゴ』のアンドロイドは、人々を本物の愛へと導くキューピッドであり、成功の鍵を握るものである。
機械を巧みに扱う少年ヒューゴには、その才能によって名声と富を得て、階級上昇する余地が与えられて、機械文明への愛をアメリカン・ドリームの精神にくるんで語っている。

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