イミテーション・ゲーム

(C) 2014 BBP IMITATION, LLC

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『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』 原題 The Imitation Game
製作:シネスコ     配給:GAGA(ギャガ)監督:モルテン・ティルドゥム
出演:ベネディクト・カンバーバッチ(アラン・チューリング)/キラー・ナイトレイ(ジョーン・クラーク )
マシュー・グード (ヒュー・アレグザンダー)/マーク・ストロングス(チュアート・ミンギス )
公式HP:http://imitationgame.gaga.ne.jp/


『イミテーション・ゲーム~エニグマと天才数学者の秘密』--天才兼モンスターの苦悩

                 清水 純子

TVシリーズ『SHERLOCK シャーロック』で大ブレイクしたベネディクト・カンバーバッチが、『イミテーション・ゲーム』 では第二次世界大戦のドイツ軍の暗号エニグマの解読に成功した英国の天才数学者アラン・チューリング役に挑む。

「イミテーション・ゲーム」とは、コンピューターの思考能力を評価するテストである。
人間の思考に近いほどそのコンピューターは優秀であると評価される。
別名チューリング・テストと呼ばれるが、開発者のチューリングが暗号解読をゲームとしてとらえていたことによる。


1939年ドイツ軍の攻撃に苦しむ英国は、解読不可能とされたドイツの暗号エニグマを解くことができなかった。
英国政府は、ケンブリッジ大学特別研究員の若き天才的数学者アラン・チューリングに秘密作戦への参加を要請し、6人の精鋭チームを編成する。
チューリングは、偏屈で協調性がなく、旧メンバーと対立するが、助け舟を出したのは公募によってチームの一員に選ばれた天才女性クロス・ワードパズル解読者ジョーン・クラーク(キーラ・ナイトレイ)である。
気さくで気転のきく美女ジョーンのおかげでチームは団結し、チューリングの天才を他のメンバーも認め、支えるようになる。


チューリングは、開発した巨大な暗号解読装置チューリング・マシンに亡き親友の名をとって「クリストファー」と名づけるが、「クリストファー」も莫大な数字の組み合わせの前で結果が出せない。怒る英国軍部とあせるチームに突破口を示すのが、電話交換手でドイツ軍の暗号を毎日傍受しているジョーンの女性の友人である。
彼女の一言がヒントになって検索の範囲を狭めたクリストファーは、ドイツ軍の秘密の指令をやすやすと解く。
「クリストファー」の暗号解読の成功は、英国軍の情報戦勝利をもたらし、戦争終結は2年以上早まり、1,400万人以上の命が救われたとされる。

しかし、チューリングの偉業は50年以上も英国政府の機密扱いにされていた。英国のみならず、第二次世界大戦の英雄であるはずのチューリンの名声が闇に葬られていたのはなぜか? 
その理由は「天才数学者の秘密」にあった。チューリングは、並外れた数学的天分ゆえの特異な発想法と行動という点で、モンスターであった。

チューリングがモンスター扱いされた理由はそれだけではなく、その性的嗜好にあった。
チューリングは、当時の英国が犯罪として禁じていた同性愛者であった。
チューリングは、天才と同性愛の双方の特質のために、幼少時から成人してからもずっとモンスター扱いされて苦しめられていた。
名門パブリック・スクールでは、傑出した数学的才能のために逆に教師の不興を買い、他の生徒たちと違っているゆえに、にらまれた。
チューリングの天才独特の奇妙な雰囲気のために学友はよりつかず、いじめた。
床下に寝かされ、その上の板に釘を打ち埋葬される形で閉じ込められるチューリングに、男同士の陰湿ないじめの実態を見て、ショックを受けた観客も多いはずである。
その時、助けてくれたのがクリストファーであった。

チューリングは、クリストファーを生涯無二の友としたが、彼は結核で早世する。
天才と同性愛のために孤独に生きるチューリングも、チーム仲間の女性ジョーンには心を開き、相思相愛で婚約するが、同性愛の性癖に悩んで、ジョーンとの婚約を自ら破棄する。
チューリングにとって最大の打撃は、ソ連のスパイを疑った警察に同性愛者であることを察知されてしまったことである。
1940年代の英国では男性の同性愛は処罰の対象であったために、チューリングは刑罰としてホルモン療法を強制され、体調を崩す。
その後1954年にわずか42歳でチューリングは亡くなる。
青酸カリによる自殺とも事故死とも伝えられる。

天才であり、同性愛者であるために当時の英国社会のモンスターにされて、孤独のうちに生涯を終えたチューリング。
この映画は、チューリングの偉業を讃えるだけではなく、マイノリティーに対する差別と偏見を批判している。
並外れた彼の功績がその個人的秘密、つまり性的嗜好による国家ぐるみの偏見と差別のために曇らされ、隠蔽され続けてきたことを静かに訴える。

この映画の新鮮な点は、チューリングの天才が情報戦においてドイツ軍に勝利するまでのスリリングな過程を描くのみならず、人間チューリングを描くヒューマン・ドラマとして仕立てたことにある。
チューリングは、第二次世界大戦の英雄であったばかりでなく、現代のコンピューターの産みの親でもある。
人類に計り知れない恩恵を与えたこの男に世間が下したのは「モンスター」という評価でしかなかった。
世間一般人という凡庸で狭量な生きものこそがなんとおぞましい 「モンスター」 なのだろう。

2013年になってやっと英国政府は、チューリングの業績を認めた。
エリザベス2世の名のもとに正式な恩赦が発行され、キャメロン首相はチューリングの偉業をたたえる声明を発表した。
アラン・チューリングの生涯は、ヒュー・ホワイトモアの戯曲『ブレイキング・ザ・コード』(1986年)に描かれ、ロンドンのウェストエンドに続いてアメリカのブロードウェイで公開されて好評を博した。
英国BBCも1996年にテレビ映画化している。

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