恐竜が教えてくれたこと


恐竜が教えてくれたこと』原題:Mijn bijzonder rare week met Tess/ 英題My Extraordinary Summer with Tess/ 製作国オランダ/2019年/ 配給 彩プロ/ 後援 オランダ王国大使館/上映時間 84分/ 公式サイト
2020年3月シネスイッチ銀座ほか全国にて順次公開
スタッフ: 監督 ステフェン・ワウテルロウト/ 製作 ヨーラム・ウィリンク、ピートハルム・ステルク/ 原作 アンナ・ウォルツ『ぼくとテスの秘密の七日間』/脚本 ラウラ・ファン・ダイク/ 撮影 サ ル・クローネンベルグ/ 美術 フロリアン・レクテルス--音楽 フランシスカ・ヘンケ/
キャスト:サム--ソンニ・ファンウッテレン/ サムの母--スサン・ボーハールド/ヒューホ--ヨハネス・キーナスト/


『恐竜が教えてくれたこと』―サム少年の7日間のイニシエーション

                     清水 純子
★最後の恐竜の孤独
 サムは11歳のオランダの男の子。オランダ北部のテルスヘリング島でパパとママと3歳年上の兄と夏のバカンスを過ごす。この島で少女テスと知り合った7日の間にサムは人生の真実に開眼する。
 思春期のサムは、生命あるものは必ず死ぬという事実を厳粛に考えている。「地球最後の恐竜は、一自分が最後だと知っていたのかな?一人で寂しくなかったのか?」と真剣に悩む。末っ子のサムは、年を取ったら自分も最後の恐竜と同じように一人になるのだから、今から孤独に慣れておかなければと心の準備をする。サムは、老いて一人になった時のために浜辺にお墓を掘って寝そべりながら人生について夢想する。ところが、父に誘われてボール蹴りをしている時、兄がサムの堀った穴に落ちて骨折する。バカンスの間は車いす生活を余儀なくされた兄に責められたサムはしょげるが、偶然同年配の少女テスに呼び止められて友達になる。テスは、看護師のシングルマザーと暮らしているが、秘密がある。死んだはずの父を母に内緒でここテルスへリング島でのバカンスに招待したのである。娘の存在を知らない若い父ヒューホは、恋人を伴って屈託なくテスに接するが、テスは娘であることを打ち明けるタイミングに悩んでいた。見かねたサムが加勢して万事めでたく収まるのだが・・・

★ひと夏の経験
 テスと過ごした7日の間に、サムは人間関係の複雑さを学び、自然の猛威から守ってくれるのは、家族とそして心豊かな隣人であることに気づく。サムは、「パパがいてよかった」と父に抱きついて感謝し、干潟で海の泥から足が抜けなくなった時に助けてくれた独居老人をテス家のパーティに招待してねぎらう。女の子を意識し始める年ごろのサムは、ヒューホに接近するテスを見て実父だとは知らず「おじさんに興味があるのか!」とひがんだり、テスが兄ヨーレと楽しそうに話すのを見ると「テスはイケメンの大人の男が好きなんだ」とやっかむ。兄ヨーレは「もうチューはしたか? 女ってものは、男から迫らなければ動かない!」と弟サムをからかう。最後の日のパーティで、サムはふたりっきりになると美しい夜の浜辺を背景にテスにキスをする。サムの淡い初恋の行方はいかに・・・サムもテスも共にわずか7日の夏休みの間に、おとなの世界をのぞき、自分たちもおとなであることに一歩足を踏み入れる。

人生の真実に開眼
 サムはテスによって人生の真実に開眼し、テスもサムの存在によって自分のルーツである父と親子の絆を築く。サムとテスは、人間は孤独な生きものだという事実を認識した後に、お互いの交友を通して人間はそれでも相手を必要とする、一人では生きていけない、それだから互いを大切に!という人間社会の真実と掟に開眼する。サムとテスはおとな社会のあやうく複雑な人間関係の壁を協力して乗り越えたことによって、社会的に一人前の大人として認知,編入されるための一連の手続きを経る準備段階に入った。恐竜は、サムとテスにイニシエーション(人間として一人前になるための手ほどき)を授けてくれたのである。人間も恐竜と同じように優しい時も怖ろしい時もある自然の中で孤独と戦って死を迎えるが、一人ではないのだ、いつも仲間と助け合って生きていくのだ――サムに「恐竜が教えてくれたこと」は、孤独な人間が仲間と協調して生きていく姿勢と技を磨くことの大切さである。

★パステルカラー調の物語
 来年の夏もサムは、この美しいテルスヘリング島を訪れるだろうか?その時、テスはどう成長しているのだろうか テスの父もまたやって来るだろうか?サムの命の恩人の孤独な老人は来年も元気でいてくれるのだろうか? 
 人生の真実と神秘を美しくも厳しい自然を背景にパステルカラー調で描いた『恐竜が教えてくれたこと』は、のびやかで美しいイニシエーション・ストーリーである。

©2020 J. Shimizu. All Rights Reserved. 28 Jan. 


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