モンロワ


2015年 カンヌ国際映画祭女優賞受賞(エマニュエル・ベルコ)
2016年 セザール賞8部門ノミネート

© 2015 / LES PRODUCTIONS DU TRESOR – STUDIOCANAL


『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』 (原題Mon Roi)
製作年 2015年 / 製作国 フランス / 言語 フランス語/ DCP/2.35/ドルビー/
配給 アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル/
上映時間 126分 / 映倫区分 R15+ /
スタッフ: 監督マイウェン
キャスト: エマニュエル・ベルコ:トニー/ ヴァンサン・カッセル:ジョルジオ/
 ルイ・ガレル:トニーの弟ソラル/ ソラルの恋人バベット:イジルド・ル・ベスコ/
2017年3月25日YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか
 全国順次公開
公式HP: http://unifrance.jp/festival/2016/films/mon-roi


『モン・ロワ』――角砂糖がとける時

                                         清水 純子

 フランス映画『モン・ロワ』は、角砂糖のように甘く、隙間なく、緊密に結びついていた男女の愛が、紅茶やコーヒーの液体のように渋くて苦い現実の中で、とけていく様をリアルに、共感をこめて描く。

角砂糖の回想   
 女性弁護士のトニーは、スキー事故で大けがをしてリハビリセンターに入院する。入院中に元夫ジョルジオとの過去をていねいに回想する。場面は、事故後の緊急入院のベッドからリハビリする仲間との語らいの間に、トニーとジョルジオとのなれそめ、ジョルジオとの確執、息子の誕生、離婚の場面がはさまれて、最後は、息子の学校の面談で、他人に戻って顔合わせる母トニーと父ジョルジオの距離を置いた形が映し出される。

 トニーは頭の良い女だが平凡な容姿、ジョルジオは料理人からレストラン経営者になって、おしゃれな生活を楽しむプレイボーイ。10年前にトニーはジョルジオを見染めていた。バーで再会したのをきっかけに、トニーはジョルジオへの接近に成功し、デートを重ね、結婚にこぎつける。そろそろ子どもが欲しい年齢になっていたジョルジオにとっても、トニーは最高のママ候補だった。
 しかし、デート当初の角砂糖のように緊密な甘い二人の関係は、現実というつかみどころがなく、コーヒーや紅茶のような苦い流動体の中で、しだいに崩れて溶解していく。あれほど熱く結びついていた愛の角砂糖は、もっと熱く苦い現実、つまりコーヒーと紅茶の液体の中で溶けて、影も形もなくなる。言い争い、つかみ合いの喧嘩をする二人に残されたものは、苦い味! 二人の愛は消えたが、愛の痕跡は別の形になって結晶した。それがかわいい男の子、トニーとジョルジオの息子シンドバッドである。

★似たもの同志 
「子はかすがい」というが、トニーとジョルジオの場合は完全に元に戻ることはなさそう。お互いに好きで一緒になったのだから、今でも嫌いではないのだから、自分を抑えればうまくいくのだが、それができない。ジョルジオが浮気で勝手気ままなのは、一部の男によくある性格。昔の女は不平と不満を言いながら、喧嘩を繰り返しながらも我慢して一生を終えた。でも、現代の、しかもトニーのような超エリートの自立した女にはそれは無理。 それどころか、トニーは、せっかくジョルジオが開いたパーティーの席上で、ジョルジオの友人の前で取り乱して大荒れ状態になり、たしなめられる。日本だったら、こんな女、亭主の顔に泥を塗る悪女で許されない、男のメンツを汚す女として社会的に葬られる。でも、フランスではそうでないらしい。トニーが自由業で、プライベートが別だからであろう。女性の自立は、家族の崩壊につながることも事実である。
だいたい、トニーは、スキー事故も自分から招いたようなもの――「ママ、待ってよ」という息子の制止も聞かずに、自分一人で急こう配をスキーで突っ走って、瀕死の重傷を負う。この件だけ見てもトニーの性格がわかるというもの。ジョルジオとトニーの仲たがいは、双方の責任である。衝動的で向こう見ずな気性同志だから、互いに引かれたともいえる。

★新しい愛の角砂糖シンドバッド
 職業は対極にあるように見えて、長所も欠点も奇妙に共通する二人は、蜜月状態の時は、現実という液体を排除した角砂糖状態でしっかり密着していた。しかし、現実は、空気も液体も含むもの。二人の愛の角砂糖は現実の中でもろく、くずれ、液体の中で消えていく。だが角砂糖が溶けた後の液体は、確実に砂糖の味を含んで残る。二人の愛が溶けこんだ熱い飲料は、息子のシンドバッドである。トニーとジョルジオが愛し合った証のシンドバットには、二人の遺伝子が精妙に融合されている。二人の男女の愛の角砂糖は溶けてなくなったが、別の新しい角砂糖シンドバッドを生み出した。最後の場面の教師によるシンドバットの能力と性格分析が、二人の愛の新たなる角砂糖の誕生を告げている。

★大切な人は誰? 
『モン・ロワ』 は、フランス語で「私の王様」、「私の大切な人」という意味だが、二人の男女にとって、当初はお互いを意味したが、結局最後には愛の結晶の息子を指すのだろうか? 男女の愛なんて、次世代作成のための一時のパッション、情熱の過ちでしかないのだろうか? 男女の愛とは、神が仕組んだ再生を促すトリック、人類存続のための仕掛けなのだろうか?
 この映画は、女性の自立に伴う、男女関係と親子関係をリアルに描いた、フランス映画の秀作である。主演のヴァンサン・カッセルとエマニュエル・ベルコの熱演がすばらしい。

©2016 J. Shimizu. All Rights Reserved. Dec. 18. 2016.

© 2015 / LES PRODUCTIONS DU TRESOR – STUDIOCANAL


50音別映画 に戻る