Mr.ホームズ:名探偵最後の事件



『Mr.ホームズ:名探偵最後の事件』(原題Mr.Holmes
製作会社:シーソー・フィルムズ、アル・フィルム、アーチャー・グレイ・プロダクションズ
BBCフィルムズ、イコン・プロダクションズ
スタッフ:
監督:ビル・コンドン、脚本:ビル・コンドン、ジェフリー・ハッチャー  
原作:ミッチ・カリン『ミスター・ホームズ 名探偵最後の事件』
製作:アン・キャリー、イアン・キャニング、エミリー・シャーマン
キャスト: 
シャーロック・ホームズ - イアン・マッケラン/ジョン・H・ワトスン - コリン・スターキー/ミセズ・ムンロ - ローラ・リニー/アン・ケルモット - ハティ・モラハン/梅崎 - 真田広之/ トーマス・ケルモット - パトリック・ケネディ/ ドクター・バリー - ロジャー・アラム/ギルバート警部 - フィル・デイヴィス/ マダム・シルマー - フランシス・デ・ラ・トゥーア/ ロジャー・ムンロ - ミロ・パーカー/ シャーロック・ホームズを演じる俳優 - ニコラス・ロウ/
配給:ギャガ   言語:英語 上演時間 104分
2016年3月 TOHOシネマズシャンテ他 全国順次ロードショー
公式サイト:http://gaga.ne.jp/holmes/

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『Mr. ホームズ:名探偵最後の事件』―アンチ・エイジングの秘訣は日本

                      清水 純子 
                             
世界で一番有名な探偵シャーロック・ホームズが日本にやってきたらどうなる?
『Mr. ホームズ:名探偵最後の事件』では、93歳のホームズ氏は、日本のペンパル(ペン・フレンド)の梅崎を頼って来日する。
日本のホームズ・ファンにとって、天才ホームズが頼りにする対象として日本が選ばれたとは、光栄このうえないお話である。

頭脳明晰の代名詞のようなホームズも、90歳を超えて記憶力の減退に悩む毎日を送っていた。
最後の事件を今は亡き朋友のワトソンに代わって執筆しようにも、思い出せない。
悩んだホームズは、日本の山椒(サンショウ)が老化防止の特効薬だと聞き、日本にやってくる。
1947年第二次大戦の爪痕が生々しい日本を訪れたホームズは、原爆で顔が焼けただれた女性に、広島の原爆ドームに涙を流す。そして梅崎と日本料理店(中華料理店にしか見えないが)で山椒汁に舌つづみを打つ。
引退先の英国の田舎家まで、ホームズが風呂敷に包んで大切に抱えていたのは、山椒の鉢植えである。

山椒に記憶を呼び戻す効能があるのだろうか? 
ホームズのかかりつけの医者は、山椒には副作用がないとはいえない-「希望」という副作用があると皮肉を言う。
ホームズは、ある事件の解決に失敗して、田舎に引退してミツバチの世話にいそしんでいる。
ホームズの身の回りの世話をするのは、幼い息子ロジャーを抱える未亡人の家政婦マンロー夫人である。

女嫌いで偏屈もののホームズは独身を通してきたが、人生を振り返ってみて、一つだけ後悔することがあった。
卓越した推理力と知性を誇るホームズは、実は人の心のひだ、特に女性の繊細な心の動きをつかめない男だった。
老境に達したホームズは、なぜあの時、あの女性アンと一緒に生きる勇気を奮い起こさなかったのかと悔やむ。
ホームズの人生に対する臆病さが、事件を未解決にしてしまった。失敗を悔いて鬱になったホームズは探偵業を廃業した。
今、孤独なホームズ老人の心を慰めるのは、ホームズの事件簿の愛読者であるロジャー少年である。
ホームズは、聡明なロジャーに未来を託して大切にするが・・・

ホームズは、人生最後のステージで、自分の天才にまかせて多くの人々を知らずに傷つけてきたことを知る。
人助けだと思ったことが、よかれと思ってしてきたことが、実は相手を傷つけ、取り返しのつかない事態を招いてしまったことを知る。

『Mr. ホームズ:名探偵最後の事件』は、老齢に達したホームズの告解であり、罪を悔いた自己反省禄だともとれるが、イアン・マッケランが演じるホームズは、飄々(ヒョウヒョウ)として嫌味がなく、ほほえましい老人を好演して共感を呼ぶ。
英国の田舎の美しい風景、古めかしいが風情のある家具調度品、登場人物の慎みとぬくもりを失っていない人間味が好ましい。
そしてなによりも、老いて謙虚さとやさしさ、自分を振り返って反省するホームズの人間としての成熟と成長がうれしい。

人はいくつになっても進化しうる、それにより大きな人間になりうる。
これも日本の山椒がきいたのだろうか?

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