ペイ・ザ・ゴースト

 

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『ペイ・ザ・ゴースト――ハロウィンの生贄』(原題Pay the Ghost )
製作年:2015年 / 製作国:カナダ/
スタッフ:監督ウーリー・エデル/ 製作ニコラス・シャルティ、エクレイグ・J・フローレス、パトリック・ニューウェル、イアン・レビ/ 脚本:ダン・ケイ/ 音楽:ジェフ・マカヴォイ/
キャスト:大学教授マイク・ローフォルド:ニコラス・ケイジ / 妻クリステン:サラ・ウェイン・キャリーズ/ 同僚ハンナ:ベロニカ・フェレ / 息子チャーリー: ジャック・フルトン/
公式HP: http://gaga.ne.jp/ghost/
2016年10月22日(土)渋谷シネパレスほか全国順次ロード ショー


『ペイ・ザ・ゴースト―ハロウィンの生贄』―男はつらいよ、女はこわいよ

                          清水 純子

 『ペイ・ザ・ゴースト』は、21世紀ニューヨークの「ハロウィン」祭の幼児誘拐事件を、400年以上前のケルト女神がからむ怪奇現象としてゴシック・タッチで描く。
ハロウィン(Halloween)は、毎年10月31日に行われる祭りである。起源は古代ケルト民族の収穫祭にあり、悪霊を追い出す宗教的行事でもあった。ハロウィンの夜には、死人の霊が蘇ったり、悪霊が子供をさらったり、作物を荒したりすると信じられていたため、悪霊退治の祭事であった。悪霊を怖がらせ、撃退するためにカボチャの中身をくりぬいて目鼻をつけた「ジャック・オー・ランタン」(Jack-o'-Lantern)を作り、子供たちが魔女や亡霊に仮装して近所の家からお菓子をもらう習慣がある。

 

カボチャで作るJack-o'-Lantern


 映画のタイトル「ペイ・ザ・ゴースト』(Pay the Ghost)は、ハロウィンの夜にゴースト(亡霊)にさらわれて行方不明になった子供たちが口にした言葉である――「亡霊に償え」という意味である。


 1679年ハロウィンの夜のニューヨーク郊外から映画は始まる。その年ニューヨークでは疫病がはやって多くの命が奪われた。アニーと3人の子供たちは無事だったため、アニーは魔女だと噂されて火あぶりになる。3人の子供たちもアニーの眼の前で火をつけられる。苦しみ悶えるアニーは、毎年ハロウィンの夜に蘇り、仕返しに町の子供を3人ずつ連れ去ることを誓う――「亡霊に償いをするのさ」と。 


 場面はハロウィン間近の現代ニューヨークへ移る。大学教授のマイクは、終身雇用獲得のために、夜遅くまで図書館で論文に向かう。家では、妻クリステンと幼い息子のチャーリーが待ちくたびれている。チャーリーは、子供部屋の窓から亡霊を見て怯え、ママのベッドにもぐり込む。多忙をきわめるマイクは、翌日もかぼちゃに顔を掘るチャーリーとの約束を果たせず、夜遅く帰宅する。終身雇用を得たマイクは、妻を喜ばせるが、チャーリーに負い目を感じてハロウィン祭りに連れていくことにする。チャーリーがねだるアイスクリームを買うために一瞬手を放したすきに、チャーリーは消える。警察の懸命な捜査にもかかわらず、手がかりはない。チャーリー誘拐の一年後、マイクは市街バスの中にチャーリーの顔を見る。マイクがバスに飛び乗ると、チャーリーはいない。 

 マイクは、町の廃墟の壁の落書き“Pay the Ghost!” からチャーリー探索の手がかりをつかむが、警察は相手にしてくれない。妻のクリステンは、マイクの不注意で「私の息子を失った」と責め続け、二人の仲は冷え、別居する。
しかし、クリステンも超自然現象を体験してから、マイクのチャーリー探しに協力するようになる。

 ハロウィン晩の子供誘拐犯は、亡霊になったアニーであった。“Pay the Ghost!”と書かれた廃屋に、アニーのいるあの世とこの世をつなぐ橋がある。一年前に誘拐された子供たちに限って、ハロウィンの夜にこの橋を渡れば、現世に戻れる可能性がある。マイクは、囚われの子供たちの群れからチャーリーを含む3人の子供を連れ出して、時間切れ寸前にこの世に戻る。


★男はつらいよ
 ニコラス・ケイジ扮するマイクは、本当は勇気のある男なのだが、妻に飼いならされている。昇進のための論文作成で疲れて帰宅すると、すやすやと気持ちよさそうに寝ていた妻クリステンが、がばっと起きて帰宅が遅くて約束を破ったと責める。
努力の甲斐あって昇進が認められ、喜んで帰宅をすると、ハロウィン祭の準備は終わり、不機嫌な妻が待っている。
朗報に顔を輝かせた妻の顔は、息子失踪を機に鬼の顔に変わる。「あなたが夜遅く息子を連れ出したせいよ、あなたは自分の子供すら守れなかったダメ男!私の息子なのよ!」と別居に踏み切り、口もきかない。

 誰よりも責任を感じて苦しんでいるのはマイクなのに、チャーリーが自分だけの子供のように言うクリステン。
マイクの気持ちにも立場にも鈍感な妻なのに、マイクは自分の責任を自覚して着々と情報を集めて、命がけのチャーリー救出作戦に打って出る。

 マイクのようにおとなしく見えるが実は勇気がある男を一方的に責める妻はどういう人間か?と思ってしまうが、クリステンがアメリカの平均的妻なのかもしれない。日本の女性は、夫が仕事で残業をして遅くなっても小言は言わないだろう。まして子供が誘拐されたので、むくれて別居するなどしないはず! そんなことをしていたら何度離婚しても結婚しても収まるはずがない、と批判的に眺める。アメリカの結婚した男女はお互いにたいへんである。子供の問題を考えなければ、男は一人でいた方が気楽なのでは?思ってしまう。

 しかし、切羽詰まると逆に底力を発揮するのがマイク。同僚の金髪美人ハンナ女史の調査の加勢を得て、亡霊アニーのたくらみをくじいいて息子を家に連れ帰る。今回も危険な行動を夫まかせにしていた妻クリステンも、満面の笑みでチャーリーを抱きしめて、この一家に関しては、ハッピーエンドになる。
だが、アメリカの男はたいへん!、男はつらいよ!が、ケイジ氏のおどおどと苦渋に満ちた表情から伝わる。


★女はこわいよ

1.魔女アニー
 映画はマイクの活躍にスポットライトをあてるが、この映画の主役は魔女である。17世紀のNYで理不尽に殺されたアニーが魔女であるのは言うまでもない。自分ばかりでなく、子供たちも眼の前で虐殺されたアニーの恨みは想像に難くない。イギリスのスーザン・ヒル原作の『ウーマン・イン・ブラック』も子供を失った女の恨みが子供たちを殺害する話だし、日本の『四谷怪談』のお岩さんも同様の幽霊である。子持ちの女性に害をなすと化けて出て、末代まで祟られるのは、洋の東西を問わないらしい。

2. 魔女クリステン
 しかし、魔女はアニーだけでないのがこの映画の怖いところである。マイクの妻クリステンもある意味で魔女である。日常の家庭生活において、マイクを脅迫するかのように自分たち家族との約束に縛り付け、結果的にマイクを追い詰めたのはクリステンの所業である。魔女クリステンは、自分の都合の悪い事が起きると、眼をむいて怒りをあらわにして矛先を夫に向け、思うようにならないとそっぽを向いてすねる。美魔女だった妻は、子供を奪われた後、マイクには本物の魔女の顔を向け、魔女の呪いを吐き出す。マイクは息子を連れて帰ったので妻クリステンの魔性は当分顔を出さないであろう。
 ところが、マイクはもう一人、新たな魔女を抱えてしまったことが映画のエンディング・タイトルが流れる中で判明する。

3.魔女ハンナ
 マイクの昇進の決め手になった推薦状を書いたのは、金髪美人の同僚の研究者ハンナである。
ハンナは、マイクの良き相談相手であり、助っ人であった。魔女アニーの情報を夜遅くまで図書館に居残って調べてくれたのは、ハンナである。そのハンナは、気の毒なことにマイクに魔女アニーの正体を明かした直後、窓から侵入した怪奇現象によって地上にたたきつけられる。最後の場面では、串刺しされた死体になったアニーのはらわたを3羽のカラスがつつく。するとアニーの目がぱっと開いて、充血した目で画面をみつめる。
魔女ハンナの誕生である。
マイクは、ハンナが魔女になって蘇生したことを知らない。美魔女に戻ったクリステンと再び仕合せ家族を再演中であろう。ハンナの身になってみればわかることだが・・・
 映画ではハンナの素性は明かされていないが、ハンナはどんな女性なのか? 独り者で、もしかしたらマイクに好意以上の感情を抱いていたので親切にしたのかもしれない。
それなのに、マイクの妻の幸福のためにハンナだけが死んで犠牲になったとしたら? 
想像はつきないが、マイクは相変わらず、女性の気持ちに鋭敏になってはいないのでのんきにしているかもしれない。


 男の身勝手、鈍感さが女を魔女にするのかもね~~~。
ウーマン・リブも、男のわがままと鈍感に耐えかねた魔女集団の決起集会だったなんて思ったことありませんか?
 でも映画を見る限り、女も勝手ですよね? こんなことでは男もたいへんと思っちゃいます。
結局、男の勝手さが魔女を産み、魔女が男に復讐するという構造なのでしょうか?
どちらも譲れないからなんでしょうね。


©2016 J. Shimizu. All Rights Reserved. 2016. Sept. 2

 


 

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