Re:Life~リライフ

『Re: Life~リライフ』 原題The Rewrite
製作年 2014年 製作国 アメリカ 配給 キノフィルム/ 上映時間 107分 映倫区分G
スタッフ: 監督&脚本 マーク・ローレンス /製作 リズ・グロッツアー
キャスティング:ヒュー・グラント:キース・マイケルズ/マリサ・トメイ:ホリー・カーペンター/ベラ・ヒースコート:カレン・ギャブニー/アリソン・ジャネイ:メアリー・ウェルドン教授/
J・K・シモンズ:ラーナー学科長/ クリス・エリオット:ジム・ハーバー教授
公式サイト: http://www.relife-movie.com/
11月よりTOHOシネマズシャンテほか全国公開

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『Re: Life~リライフ』―-ハリウッドの脚本家が大学教授になったら

                清水 純子

ハリウッドの人気脚本家が大学教授になったらどうなるか? 
ヒュー・グラント主演の『Re: Life~リライフ~』は、風刺的コメディの秀作で ある。
厳密に言うと、アカデミー賞脚本賞受賞の売れっ子脚本家だったキース・マイケルズ(ヒュー・グラント)が、ニューヨークの田舎町の英文科の客員教授になった ら、なにが起こるか?を描く。
『Re: Life~リライフ~』は、二大業界ハリウッドと大学の実情をリアルに、アイロニカルに、ユーモラスに見せる。

キースは、一夜で名声を手に入れたハリウッドの脚本家である。
キースの名声は、アカデミー賞受賞と共に突然訪れた。
イギリス詩人のジョージ・ゴードン・バイロン男爵(George Gordon Byron, 6th Baron Byron, 1788~1824)のように、「ある朝目覚めたら有名になっていた」("I awoke one morning and found myself famous")のである。

しかし、キースのにわか仕立ての名声は失墜も早かった。
妻は一人息子を連れて離婚し、キースの同業者の売れっ子ライターと再婚する。
この15年間ヒット作に恵まれず、新企画にも乗れないキースは、生活に困り、エージェントに泣きつく始末。
紹介されたのは、ニューヨーク北部の田舎町ビンガムトンのクリエィティブ・ライティング・コースの大学講師。
教師をバカにしているキースは怒るが、断りの最中にTV電話の電源が切られ、自分の経済状況を認識してしぶしぶ引き受ける。

大学近くのマックでハンバーガーをぱくつくキースにいち早く目をつけたのは、女子学生ベラ(カレン・ギャブニー)。
キースがハリウッドの著名な脚本家だと知ると、ベラはモーションをかけ、二人は当然のようにベッドイン。
朝になるとキースの部屋で裸で眠るベラの窓越しに、シェイクスピア学者のジム・ハーパー教授と愛犬ヘンリー4世の顔が並んで見える。

英文科の懇親会に招かれたキースは、メアリー・ウェルドン教授(アリソン・ジャネイ)の研究するジェイン・オースティン(Jane Austin 1775=1817、イギリスの女性小説家、リスペクタブルなクラスの女性の結婚や恋愛を描いた)を辛辣に批判をして失態を演じる。
キースは、受講生選抜を提出されたレポートを無視して、ハリウッドのヒロイン募集よろしく学生の顔写真で決める。
その結果、キースのゼミ生10名のほとんどが美人女子学生で占められ、残りの男子学生にイケメンは意図的にゼロ。
授業の運営の仕方を知らないキースは、シナリオの書き方は教えられない。才能と結果がすべてだ、と豪語してレポート提出の代わりに一か月の休講を宣言。

女子学生との不適切な関係をはじめとする大学人にあるまじきキースの行動は、委員会で問題になり、キースは辞職を選ばざるをえなくなる。
皮肉なことに、やめる頃になってキースの授業は軌道に乗りだす。
学生の人気はうなぎのぼり、受講の男子学生のシナリオは、キースの推薦で映画化決定、教師の醍醐味を知ってしまったキースは、教職を去りがたくなる。
キースは、シングル・マザーの学生ホリーのアドヴィスに従って、フェミニストで堅物の難物女性ウェルドン教授に謝罪する。

ウェルドン教授は、教師としてのキースの成長と実績を認め、「最後のチャンス」という条件付きで教職残留を許す。
キースがふと見ると、ウェルドン教授は、キースがあげたジェイン・オースティンのバッグをさげている。
そして遠慮がちに、はにかみながら、自伝の映画化推薦をキースにほのめかす。
大学に戻ったキースは、憎からず思っていたホリーに学期が明けたら交際する約束をとりつける。
そしてついに「一度も書き直す必要のなかった唯一の創造物である息子のアレックス」(And our son, Alex, who I can honestly say is the only thing I've ever had a hand in producing not desperately in need of a rewrite)から待ちに待った連絡が入る。
シナリオのリライト(書き直し)に悩まされてきたキースは、人生のリライトには良いこともあると実感する。

ヒュー・グラントの都会的に洗練されて、ほどよく知的、そしてコミカルな持ち味が生かされたドラマである。
グラントのからりとしたおとぼけの表情、憎めない茶目っ気たっぷりのいたずらっ子ぶりが健在で、ウィットに富む台詞とよくかみ合っている。
英語の国アメリカの英文科を背景にしているだけあって、英文学の知識やそれにまつわるジョークやしゃれ、皮肉がふんだんに盛り込まれている。
英文学に詳しい人にとっては、頭の体操にもなる娯楽映画でもある。
たとえば、キースのジェイン・オースティン批判「あまりに些細なことにこだわりすぎる、今晩の舞踏会の出席者は誰?とか、歪んだコルセットでお辞儀をするのかしら?でも逢ってほしい人がいるしとか、21世紀の男は19世紀の女の悩みなんか知ったことじゃない」(It's just I find it all a bit trivial, you know? ・・・Who's going to the ball tonight? My corset is askew. However will I curtsey? I'd also like you to meet...In other words, why should a 21st century man care about the obstacles facing a 19th century woman?) という意見については共感する人も多いのではないか。
また、シェイクスピア学者のハーパー教授の嘆きは、一般人の伝統的英文学に対する見方を代弁している――「シェイクスピアを正確に引用すれば皆が喜ぶと思っていたのは大間違いさ、困ったような顔にさせるだけさ」
(I thought having the perfect Shakespeare quote for any situation would make me beloved. It's surprisingly unhelpful. Yeah, it seems to really annoy people)。

この映画は、二人の教授を通して英文科の大学における状況を暗に映し出している。
ウィリアム・シェイクスピアも、ジェイン・オースティンも英文学上の大文豪であり、それゆえに権威は今でもあるけれど、現代人にとって最重要課題でも最大関心事でもない。
それなのに、英文科の先生は、古色蒼然たる伝統を順守して、その価値観を押しつける鬱陶しい存在かもしれないことを批判している。
英文科の先生は、生み出すことなく、英文学という王道にのっとって過去のものを権威のもとに保護して安閑としているともとれる。
学科存続のためには、不承不承ハリウッドの脚本家の力を借りなければならない英文科の窮状も語られている。
キースが好きな女性作家はエレイン・メイ(脚本家兼映画監督)であると言うと、ウェルドン教授は呆れて軽蔑の表情を浮かべる。
古いものが大好きだが、新しく作り出す力はなく、伝統に従って知識を伝達するだけの英文科の教授陣と、今は売れていないけれど、本来創作力旺盛で学生に新しいものを生みださせる力のあるキースとの対比が鮮やかになされる。
権威と伝統を楯にする英文科の教授陣は、おしなべて学生に不人気である。
活字媒体は大切だが、映像の力を借りなければ歩めない21世紀の要請を、ビンガムトンの英文科は映し出している。

『Re: Life~リライフ~』は、アメリカの大学とハリウッドの二つの世界を風刺的にコミカルに対比して映し出す。
監督と脚本をつとめたマーク・ローレンスは、「大学とハリウッドは似ているからね。小規模で排他的で近視眼的、自分がどれほどくるっているかが分からないし、分かりようのない世界なんだ」(ローレンス8)と述べる。
二つの世界に熟知しているローレンスならではの言葉だが、「リライト」(書き直し)ができる世界として描かれるところにアメリカの特徴が表れている。

『Re: Life~リライフ~』は、壁にぶつかってもくじけずにまた挑戦すれば、いつか「約束の地」にたどりつけるというアメリカン・ドリームを信じるアメリカの価値観を体現している。

参考資料
ローレンス、マーク「Production」『Re: Life~リライフ~』パンフレット relife-movie.com  2015年

  Copyright © J. Shimizu All Rights Reserved. 2015. Sept. 5

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