リピーテッド

『リピーテッド』 (原題 Before I Go to Sleep
製作年: 2014年
製作国: イギリス・フランス・スウェーデン、アメリカ合作   言語 英悟  上映時間: 92分  映倫区分G
配給: クロックワークス
スタッフ:監督 ローワン・ジョフィ/製作:ライザ・マーシャルマーク・ギルマット・オトゥール/
製作総指揮リドリー・スコット
キャスト:ニコール・キッドマン 、コリン・ファース、マーク・ストロング、アンヌ=マリー・ダフ
2015年5月23日 新宿バルト9 他にて公開
公式HP: http://repeated-movie.com/

(C)2013 BEFORE I GO PRODUCTIONS, INC.


『リピーテッド』――私は誰? 信じられるのは誰?
                                            
               清水 純子

ある日突然、自分が誰であるかわからなくなったとしたらどうする? 
まわりの人が自分についてそれぞれ違うことを教えてくれたら、いったい誰を信じるべきなのか?
自分にかぎってそんなばかなことはない!と思っていないだろうか?
たとえ認知症にならなくても、誰にでもそういうことは起こりうる、おそろしいことだが・・・
クリスティーン(ニコール・キッドマン)は、毎朝目が覚めると、前の日のことをすべて忘れて14年前の26歳の時の記憶に戻るという特殊な記憶障害に悩んでいる。
目覚めると、昨日とは別人の気分になって、なにも覚えていないのである。

クリスティーンは、ベッドで隣に眠っている夫ベン(コリン・ファース)が誰なのかもわからない。
夫ベンは、毎朝クリスティーンに自己紹介をして、クリスティーンの日課と、彼女自身について必要なことをメモして室内の掲示板に張り付けてから会社に向かう。
苦しむクリスティーンは、トイレでこっそり映像日記としてデジカメに自分のことを記録する。
ベンの献身に報いたいと願うクリスティーンは、ひそかに神経科医ナッシュ(マーク・ストロング)の治療を受けていたからである。
しかしナッシュは、なぜか受診していることをベンに話すことをかたく禁じている。
ベンを刺激しないためであり、彼女を守るためだというが、ナッシュは何を考えているのだろうか?
ナッシュは、クリスティーンの記憶喪失は、暴行を受けて血まみれになって裸で捨てられていた事件以来だという。
動揺するクリスティーンにナッシュは、当時の写真を見せ、現場に連れて行って第一発見者の証言を聞かせる。
クリスティーンには夫以外の男性がいたことをほのめかす。
クリスティーンは否定してみるが、記憶がないのでどうしようもない。
医学的検証結果によれば、ナッシュは本当のことを言っているらしい。
ナッシュの脳波の分析によって、クリスティーンはクレア(アンヌ=マリー・ダフ)という親友がいたことを知る。
思い切って治療のこと、クレアのことをベンに切り出して、感謝すると、ベンは狂ったように怒り出して暴力をふるい、クリスティーンを傷つける。
動揺したクリスティーンは、ナッシュに事実を打ち明けると、今度はナッシュがクリスティーンに注射を打って自由を奪う。
やっとのことで再会したクレアは、ベンが看病に疲れてクリスティーンと離婚したことを告げる。
クレアは同情して、一度だけベンと過ちを犯したことを告白する。

ベンが怒り狂ったのは過去の傷に触れたせいだろうか?
もしナッシュの言ったとおりクリスティーンに愛人がいたとしたら、ベンは許しているのだろうか?
べンは息子アダムは死んだと言ったが、あの子はきっと生きているはず、でもいったいどこで?
クレアによるとベンは黒髪だったという、しかしクリスティーンの知っているベンは金髪である。
誰かが嘘をついている、それとも皆が本当のことを隠しているのだろうか?
誰の言葉を信用したらいいのか? 誰に助けを求めたらいいのか?
私は本当は誰なのか? どんな女だったのか、あるいはどんな人間であるのか?
クリスティーンの頭は混乱する。しかし記憶を保てないクリスティーンには確かめる手段はない。
クリスティーンはどうしたらいいのか?
最後に思わぬ事実が明らかにされる。

映画はサスペンス・タッチで観客をはらはらさせながら、最後まで離さず画面に引きこんで行く。
疑惑と不安は、クリスティーンの目をとおして観客に伝えられる。
美人であるばかりでなく、芸達者でもあるニコール・キッドマンの熱演はいうまでもないが、コリン・ファースが演じる紳士的で人のよさそうなベンが隠し持つ暴力性に注目してほしい。
ファースにベンを演じさせたところに配役設定の妙技がある。
『リピーテッド』のサスペンス映画としての成功は、ファースのベン役というひねりにあると言っても過言ではない。

邦題は「リピーテッド」(繰り返して)である。
これは、映画の冒頭で言われるように、クリスティーンが記憶を一日しか保持できず、毎朝同じことを繰り返す人生における新人であることを意味する。
英語の原題の “Before I Go to Sleep” は、夜眠る前に自分が誰であるかを記録しておかないと翌朝は自分のアイデンティティーすら不明になってしまうクリスティーンの不安定な状態を語っている。
人間のアイデンティティーを保証し、確かなものにしているのは、「記憶」であることをこの映画は教えてくれる。

Copyright © J. Shimizu All Rights Reserved. 2015. April 19

 

(C)2013 BEFORE I GO PRODUCTIONS, INC.


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