レヴェナント 蘇えりし者

   
第88回 アカデミー賞(2016年)受賞(監督賞アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ /
主演男優賞レオナルド・ディカプリ オ /撮影賞エマニュエル・ルベツキ) (アカデミー賞最多12部門ノミネート)
第73回 ゴールデングローブ賞(2016年)受賞(最優秀作品賞(ドラマ)/
最優秀主演男優賞(ドラマ)レオナルド・ディカプリオ /最優秀監督賞アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ)(ノミネート:最優秀作曲賞坂本龍一 アルバ・ノト )

『レヴェナント  蘇えりし者』(原題The Revenant
製作年2015年 製作国 アメリカ / 配給 20世紀フォックス映画/ 上映時間157分
スタッフ: 監督: アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ /製作: アーノン・ミルチャン/ スティーブ・ゴリン
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ /メアリー・ペアレント/
キャスト: レオナルド・ディカプリオ: ヒュー・グラス /トム・ハーディ: ジョン・フィッツジェラルド/
ドーナル・グリーソン ウィル・ポールター/
オフィシャル・サイト: http://www.foxmovies-jp.com/revenant/
2016年4月22日よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国にて公開

© 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation.All Rights Reserved

レヴェナント 蘇えりし者』――ディカプリオが熱演する伝説の開拓者ヒュー・グラス

      清水 純子

レオナルド・ディカプリオ主演の力作『レヴェナント:蘇えりし者』は、すでにゴールデングローブ賞の他、栄誉ある賞を受賞している。
今話題になっていることは、アカデミー賞無冠のディカプリオがこの作品で主演男優賞を獲得できるかどうかということである。
ディカプリオは、数多くのすぐれた作品に出演してきた。
2013年には『華麗なるギャツビー』、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』と立て続けに問題作の主演をつとめた。
俳優としてばかりではなく、脚本家、プロデューサーとしても活躍し、その傍ら環境保護運動にも熱心で「レオナルド・ディカプリオ基金」を設立して、2014年からは国連平和大使に任命されている。
ハリウッドでの活躍に加えて、社会的知名度も貢献度も高いディカプリオが、アカデミー賞を受賞していないことは、むしろ不思議である。
ディカプリオと並んで無冠の王者には、ジョニー・デップがいるが、2016年はディカプリオ氏の年かもしれない。

『レヴェナント 蘇えりし者』のディカプリオは、いつものスマートなイケメンぶりとはうってかわって、アメリカの伝説上の開拓者を汗と体臭をにじませて男臭く演じる。
髪の毛ぼうぼう、髭もじゃ、顔も体も傷だらけ、何日も風呂に入れず、浮浪者も嫌がる汚れた服を終始まとい、泥と血と汗にまみれて、動物の死肉をむさぼって生死の境をさまよう。
ディカプリオ演じるヒュー・グラスは、1823年アメリカの未開拓地に毛皮を捕獲する毛皮フロンティアの一隊に毛皮ハンターとして加わるが、ハイイロ熊に襲われて瀕死の重傷を負う。
グラスは、先住民の追撃を怖れる一隊のお荷物になり、仲間のフィッツジェラルドによって生きたまま仮埋葬されて捨てられる。
グラスと先住民の間に生まれた一人息子ホークは、父を助けようとして叫んだために殺される。身動き一つできず、息子を助けることができなかったグラスは、渾身の力を振り絞ってホークの遺骸に寄り添い、生きて復讐を果たすことを誓う。

人間の意志の力を超越した広大で強大な自然の中で、大雪と格闘しながら、先住民に襲われて弓矢と銃弾をよけて河を下り、瀧に流され、不自由な体でグラスは死にもの狂いで生きのびる。
白人の騎兵隊に追い詰められたグラスは、盗んだ馬ごと崖から落ちて命拾いするが、外は猛吹雪である。
グラスは、死んだ馬の内蔵を取り出して、馬の内部に胎児のように入りこむ。
真っ白な雪に真っ赤な大山になって積まれる馬の内蔵、骨と皮ばかりになった馬にくるまれて無事朝を迎えたグラスは、馬の死骸に感謝の愛撫をする。

グラスは知恵、勇気、気転、気力と体力によって、不死身の男として生還する。
グラスを裏切り、嘘の報告をしてしゃあしゃあとしているフィッジェラルドは、予期しないグラスの蘇えりに蒼ざめて逃亡する。
逃がすまいと追いかけるグラスは、ここでもあざとい手管(てくだ)でフィッツジェラルドを欺き、ついに二人だけの対決に持ち込む。グラスは、天国で待つ息子ホークとの約束を果たせるのか? 父と息子の再会はいつなのか?

★背景にあるのは「毛皮貿易」
『レヴェナント』の背景に、19世紀の「毛皮貿易」による壮絶な富の争奪戦があったことを知る必要がある。
グラスを始めとする白人が、銃で鹿を狙い、罠を仕掛け、血まみれになって毛皮をなめし、その毛皮を先住民から守るために、担いで逃げる姿は、当時「毛皮」が相当な金銭になることを物語っている。
コロンブスがアメリカ大陸に到達する以前は、毛皮は、先住民同士の交換物にすぎなかったが、ヨーロッパからやってきた人々によって毛皮が富を生むことがわかってしまった。
毛皮のためにヨーロッパ人の北アメリカ大陸の植民地熱は高まり、16世紀にフランス人が毛皮貿易に加わり、17世紀にはイングランド人がカナダにハドソン湾会社を、オランダがニューネーデルランド会社を設立した。
ヨーロッパの人々が争って毛皮に群がる中で、北米の先住民部族にとっても毛皮は主な収入源になっていった。
毛皮をなめしたのは、先住民と白人系罠猟師とのハーフであった。

★『レヴェナント』の核心にあるのは人種問題グラスと美しい先住民の娘の間に生まれたホークは、母が白人によって虐殺されたために父に引き取られて育った。
冒頭にグラスが話す意味不明の言語は、先住民の言葉である。
父と息子は、二人のコミュニケーションのためには先住民の言葉を使って会話する。
父グラスは、ホークを目の中に入れても痛くないほど可愛がったが、人種差別主義者のフィッジェラルドは、ホークの存在ゆえにグラスに反感を抱いていた。
『レヴェナント』の蘇りと復讐の核心にあるのは、人種問題であるといえる。
ホークに先住民の血が混じっていなかったら、フィッツジェラルドのグラス父子に対する対応は全く別のものになっていたからである。
西部劇につきものの白人とインディアン(先住民)の抗争は、『レヴェナント』でもふんだんにもりこまれているが、19世紀になると先住民の血の混じった者が白人の中に直接入りこむことになり、異人種間の問題が複雑になる。
ホークの問題は、『燃える平原児』
(Flaming Star, 1960)で、エルヴィス・プレスリーがインディアンと白人のハーフの青年を演じ、戦うどちらの人種グループにも入れず、体に矢をさされたまま馬に乗ってとぼとぼと砂漠をさまよう気の毒な姿を思い出させる。

自然との対決、先住民との戦い、毛皮をめぐる欲、人種差別などの西部劇に必須のテーマをすべて盛り込み、壮大で美しいが威嚇する自然にくるんだ『レヴェナント 蘇えりし者』は、手に汗を握るアメリカならではの重厚なドラマである。

参考資料:
「北アメリカの毛皮交易」 Wikipedia. 

 ©2016 J. Shimizu. All Rights Reserved. 13 Feb. 2016
 

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☆ディカプリオのアカデミー賞受賞後の日本記者会見2016年3月23日は 
本サイトの「ニュース」☆レオナルド・ディカプリオをご覧になってください。

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