ロダン カミーユと永遠のアトリエ  清水

© Les Films du Lendemain / Shanna Besson

原題Rodin/ 製作年 2017年/ 製作国 フランス/配給:松竹=コムストック・グループ/
上映時間120分映倫区分 PG12/11月11日(土)より新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマほか全国公開!/ 監督・脚本:ジャック・ドワイヨン 撮影:クリルトフ・ボーカルヌ 衣装:パスカリーヌ・シャヴァンヌ/ 出演:ヴァンサン・ランドン、イジア・イジュラン、セヴリーヌ・カネル/ 2017年/フランス/フランス語/カラー/シネスコ/120分/ 配給:松竹=コムストック・グループ/

本年度カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品作/近代彫刻の巨匠、ロダンの愛と苦悩に満ちた半生を描く。《考える人》《地獄の門》で名高い“近代彫刻の父”オーギュスト・ロダン。没後100年を記念し、パリ・ロダン美術館の全面協力のもと、『ポネット』の名匠ジャック・ドワイヨンが、カミーユ・クローデルと出会ってからの愛と苦悩に満ちた彼の半生を描いた、『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』が11月11日(土)新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマほかにて全国公開の運びとなりました。

今年11月に没後100年を迎える、“近代彫刻の父”オーギュスト・ロダン(1840~1917)。《地獄の門》や、その一部を抜き出した《考える人》で高名な19世紀を代表する芸術家である。彼は42歳の時、弟子入り切望するカミーユ・クローデルと出会い、この若き才能と魅力に夢中になる。本作はロダン没後100年を記念し、パリ・ロダン美術館全面協力のもと、『ポネット』(96)、『ラ・ピラート』(84)の名匠ジャック・ドワイヨンが、ロダンの愛と苦悩に満ちた半生を忠実に描いた力作である。『ティエリー・トグルドーの憂鬱』(15) でカンヌ国際映画祭、セザール賞の主演男優賞をW受賞したフランスきっての演技派ヴァンサン・ランドンがロダンを演じる為に8カ月間彫刻とデッサンに没頭しロダンの魂までも演じきり、“ジャニス・ジョプリンの再来”と呼ばれる『サンバ』のイジア・イジュランがカミーユを好演。2017年カンヌ国際映画祭のコンペティション作品部門にてお披露目され話題となった。


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『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』――せめぎあう女たちと肉体

                                     清水 純子

 『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』は、「近代彫刻の祖」と呼ばれるフランスのオーギュスト・ロダン(1840~1917)の生誕100年を記念して、パリ・ロダン美術館の全面的協力によって生み出された。映画はロダンを事実に忠実に写実的に客観的にとらえる。 彫刻「考える人」によってロダンの名前は、日本でも知らない人がないほど有名であるが、ロダンが他にどのような作品を作り、どのような生涯を送ったのかを知る人は多くはないだろう。本映画は、ロダンの作品と人となりをヴィジュアルに知るのにおすすめの映画である。彫刻がどのような作業工程を経て製作されるのか、アトリエはどのようになっているのか、どういう道具を使うのか等がリアルに、詳細に収められた興味深く、貴重な映像でもある。ロダンの彫刻は、「生きている人間から型をとった」と疑われるほど迫真に迫ったリアリティ、生命の躍動、肉体の細部にわたる表現が特徴である。ロダン美術館の肝いりで誕生した映画『ロダン』も、ロダンの作品に劣らず、ロダンの人生およびその芸術魂を虚飾を取り払って、克明に精緻に描写する。

★副題のカミーユとアトリエ
A.カミーユ

Camille Claudel 

 副題に含まれる「カミーユ」は、ロダンの弟子で愛人でもあった彫刻家カミーユ・クローデル(1864~1943)のことである。イザベル・アジャーニ主演の映画『カミーユ・クローデル』で、カミーユの名は、日本でも広まった。写真の通りの美女で、イザベル・アジャーニが演じたとおりの美しさに加えて、繊細さと激しさ、それに狂気も秘めている。
 カミーユは、ロダンの弟子になった時は19歳であったが42歳のロダンと相思相愛の仲になり、二人の関係は15年間続く。ロダンには字の読めないお子あがりの内縁の妻ローズがいて、息子もいたため、20代後半で妊娠したカミーユは堕胎する。この頃からカミーユはロダンへの不信感を募らせる。ロダンは、約束の結婚もしてくれず、カミーユとローズ双方の間を行き来して、カミーユの才能を利用しているだけだと疑い出す。ロダンと一緒にいたのでは、偉大な師の名の下に自分は埋もれて、世に知られないままに終わってしまうのではないかと疑い出したカミーユは、ロダンの元を去る。映画『カミーユ・クローデル』に見られるように、ロダンと離別後、カミーユはますます神経の不調を募らせて、ついに狂気を発症して、最後は親族にも理解されずに精神病院で亡くなる。本作『ロダン』は、ロダンに焦点を当てているため、離別後のカミーユの詳細は語られることはなく、カミーユの姿も見られない。カミーユに去られた後のロダンは、ローズの元に戻るが、相変わらずモデルたちと情事にふける。しかしロダンは、カミーユのことを懐かしがって、密に援助を続けたとされる。映画は、エゴイストなだけの男ではないロダンの一面も浮かびあがらせる。

B.アトリエ
 カミーユと並ぶもう一つの副題「アトリエ」についてである。40歳のロダンは、国立装飾美術館のモニュメント製作を任され、ダンテの『神曲』に登場する『地獄の門』の製作にかかる。ようやく公に認められつつあったロダンは、1880年にユニヴェルシテ街182番地の国有の大理石置場にアトリエを得た。大規模な彫刻の完成には、広大な空間と設備、そして多くの人手が必要であったために、公の依頼を受けたロダンは、当時の習慣に従って、注文の大きさにふさわしい広大な空間を所有した。ここでロダンは、カミーユをはじめとする多くの弟子や作業員と共に仕事にいそしみ、またカミーユをはじめとする女たちとの愛の行為に励んだのである。映画の舞台は、ほとんどがこのアトリエで繰り広げられる、ロダンをめぐってせめぎあう女たちと肉体を描く。

★せめぎあう女たちと肉体
  ロダンをめぐる女たちは、カミーユとローズだけではない。モデルになった、あるいはなりたい女たちが大勢ロダンの元に押しかけてきた。女たちは、自分の肉体を見させ、触らせるだけではなく、性的に提供した。ロダンのアトリエには、常に若い、美しい女たちが出入りした。アトリエの仕事場では、女たちの肉体がデッサンされ、触られた後、奥の部屋でその肉体はロダンに貫かれ味見されていた。それも一対一とは限らず、ロダンを真ん中にして二人の美女が嬉々として愛欲のプレイを楽しむ。ロダンの誘いを待てずに、「ロダン先生に犯される場面を想像しながら、指で慰めていました。それが本当になるなんて」と挑発する美女すらいた。当時、新進気鋭の彫刻家としてにわかに注目を集め出したロダンだが、そこまで女たちにもてたとは映像だけからは理解しにくいのだが、売り出そうとする女たちの虚栄心がロダンを必要としたのかもしれない。このようなワンナイト・スタンド(一夜かぎり、その場限り)の愛を楽しんだ女たちは、無数にいた。 女の肉体に囲まれ、女の肉体から得た着想とエネルギーを作品に変換していく女好きのロダンをめぐり、女たちのトラブルは絶えなかった。ロダンはこの時、法的には独身だったので恋愛の自由は許されていたが、独身を盾にして、あるいは餌にして、多くの女とのアヴァンチュールを享受したといえる。
 ロダンのアトリエには女だけではなく、男のヌードモデルも多く存在し、日本の銭湯あるいはローマのカラカラ浴場を覗いたような錯覚にとらわれる。ロダンのアトリエに来た若い男女は、服を脱いで惜しげもなく長時間肉体をさらし、誇らしげな足取りで再び衣服を着て出ていく。アトリエで肉体を露わにすることがロダンに対する忠誠であり、愛と信頼の証だからである。

★日本との関わり
 ロダンのアトリエで肉体をさらすことにためらいを見せた最初の人は、着物姿の日本女性、花子である。ヌードをためらう花子を説得しているロダンの脇から、内妻のローズが飛び出してきて「ヌードモデルのくせに、このインドシナ人は裸になるのを嫌がっている」と乱暴に着物をはぎとろうとする。ロダンがローズをなだめているすきに姿を消した花子は、前を着もので隠して恥じらいながらロダンの前に華奢な肉体をさらす。ロダンは「なんと繊細で強靭な筋肉だ!」と花子の肉体に感嘆して、むさぼるようにデッサンにかかる。花子の本名は太田ひさ、マルセイユの博覧会で『芸者の仇討』に出演した女芸人である。花子の西洋女性にはない、神秘的雰囲気に魅せられたロダンは、以後花子をモデルに数十点の彫刻を制作した。たしかに、中年のローズのたくましい牝牛のような肉体がブルドーザーのパワーをもって、その1/3の厚みしか持たない花子にぶつかっていくのを見れば、ロダンが花子に魅了されたのはよくわかる。
 映画の最後の場面は、箱根の彫刻の森美術館である。ロダンの物議をかもした『バルザック』像の前で、楽しげに遊ぶ日本の子供たちの声をバックにして終わる。ロダンが遠い東洋の国日本の風景に違和感なく溶け込んでいる、ロダンは世界中で愛されるフランスの誇る芸術家であることを示している。映画の最後を飾るのが、日本であることはロダン・ファンの日本人にとってうれしい。

参考資料
A Rodin. 静岡県立美術館。<http://spmoa.shizuoka.shizuoka.jp/japanese/rodin/>.
2017年8月21日アクセス。
「カミーユ・クローデル」 Wikipedia. 2017年8月21日アクセス。

©2017 J. Shimizu. All Rights Reserved. 2017. Aug.21.




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