砂上の法廷

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『砂上の法廷』(原題The Whole Truth) 
製作年 2016年   製作国 アメリカ   配給 ギャガ  上映時間 94分   映倫区分 PG12
スタッフ: 監督コートニー・ハント 製作リチャード・サックル  脚本ニコラス・カザン
キャスト:キアヌ・リーヴス:弁護士ラムゼイ/レニー・ゼルウィガー:母ロレッタ・ラシター
ググ・ンバータ=ロー:ジャネル・プレディ/ガブリエル・バッソ:息子マイケル(マイク)・ラシター 
ジェームズ・ベルーシ:大物弁護士の父ブーン・ラシター
2016年3月25日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国にて順次公開。
オフィシャルサイト http://gaga.ne.jp/sajou/


『砂上の法廷』―学部生必見のアメリカの法廷事情 

                                 清水 純子

アメリカ映画が得意とするジャンルの一つに「法廷もの」がある。
「法廷もの」は、裁判や司法の仕組みを主題に描いた映画で、「法廷劇」もしくは「リーガル・サスペンス」と呼ばれる。
舞台の中心は、裁判所や法廷に置かれ、その審理過程に従って関連する事柄の真相や人間ドラマが展開される。
弁護士、検事、陪審員、被告人が主人公に据えられ、サスペンスやミステリーの要素を含むものが多く、最後に驚くような事実が明かされることがある。
「法廷もの」は、インテリ観客の趣向にかなう問題作が多い。
『情婦』『12人の怒れる男』『私は告白する』『アラバマ物語』『評決』に始まって『ザ・ファーム 法律事務所』『理由』『依頼人』『ペリカン文書』『ニューオルリンズ・トライアル』、そしてオーストラリアのTVドラマ『過失』(The Gross Misconduct 1993) に至るまで名作揃いである。
法廷ものは、関係者以外が見てもはらはらどきどきさせるサスペンスの魅力にあふれているが、それに加えて、映画でお勉強して賢くなった気分にさせてくれるので知的好奇心の満足にもなる。
法曹界を舞台にしたサスペンスであるために、法律専攻の学生の間で楽しんで学べる教材としてとりわけ人気が高い。
「法廷もの」の威力を思い知ったのは、法学部の大学生向けの英語の授業においてである。

『ダブル・ジョバディー』の途中でベルが鳴り中断したら、教室全体から一斉に不満の大ブーイングが沸き起こり、たじろいだことがある。授業アンケートには、「おもしろい映画によって法律と英語の勉強への意欲が高まったのでもっと見たい、これからは自分でも!」と書いてあった。
『砂上の法廷』もその系列に連なる法学部生必見の傑作リーガル・サスペンスである。

『砂上の法廷』の原題は「すべての真実」(The Whole Truth)である。
原題と邦題を合わせて考えると、この映画の言わんとすることの一部が推察される。
「すべての真実」が、見かけはりっぱであるが、砂の上に築いた楼閣のように基礎が崩れやすく、もろい地盤としての法廷の上にのって裁かれた、という意味にとれる。
つまり、法廷が下した判決は、真実に基づかない虚偽によってなされ、その結果、法廷は砂上の楼閣としての機能しか持たないと解釈できる。

アメリカの伝統的法廷では、証言台に立つ者に聖書の上に手を乗せて「真実のみ語る」ことを宣誓させる。
信仰に篤い人々の集まりとは言いきれない日本人は、聖書に誓うことに何の拘束力があるのか?と思うが、幼い頃からキリスト教の教育を受けてきたアメリカの多くの人々にとっては事情が違うのである。
神聖なる聖書に誓ったら、アメリカの人々は嘘をつかないし、つけないとずっと長い間、思われてきた。
しかし、『砂上の法廷』を見るかぎり、最近はそうでもなくなったようである。
どの宗教も「嘘」を厳しく戒めるが、キリスト教の教えの元になった「モーゼの十戒」にも「偽証するな」という項目がある。
しかし、『砂上の法廷』の証言台に立った人々は、ある目的、自己保身と利益のために、全員が嘘をつく。
その理由が常に利己的であるとはかぎらないし、深い思いやりからの場合もあるが、ともかく「偽証する」。
弁護士ラムゼイもそのことをよく見抜いて、「人は証言台に立つと、皆それぞれ嘘をつく」と言う。
そのために嘘を見抜く名人の敏腕女性弁護士ジャネル・ブレイディを助手に雇う。
忘れてならないことは、ラムゼイ自身が「証人は嘘をつく、そして僕も・・・」と言っていることである。
弁護士には作戦、時には策略が必要である。バカ正直であっては弁護士はつとまらない、仕事のテクニックの上での事実隠蔽も時と場合によってはしかたがないととれるが・・・

『砂上の法廷』は、大物弁護士ブーン・ラシターが、優秀な高校生の息子マイクに刺殺される。
父のラシターと母ロレッタ最近仲が悪く、父は母を虐待していたらしく、マイクの父への敵意が動機とされた。
有罪間違いなしとされたマイクの弁護は、ラシター家に出入りする弁護士ラムゼイが引き受ける。

主要登場人物について

☆大物弁護士の父ブーン・ラシター

大金持ちで権力があるのにまかせて、妻と息子を支配しようとする。豪華自家用飛行機を所有して、美女を客室係員にして、あやしげな行動が想像される。最近、妻ロレッタを人前で「ばか」よばわりして、家の中でもレイプまがいの性的虐待を続けているもよう。弁護士志望の息子マイクの教育に熱心で、幼い頃から特訓を開始し、マイクの意に反して、名門スタンフォード大進学を強制する意向。ラムゼイ弁護士とは親しく、妻のことで悩み相談とも挑発とも取れる言葉をもらす。

☆母ロレッタ・ラシター
権力者の夫の下で脅えて暮らしている。夫の暴力に耐えかねた、すさんだ暗い表情。 秀才の息子マイクをかわいがっている。 専業主婦。


息子マイク
ラシター幼い頃から父のように弁護士になりたいと思っている。非常に聡明で成績優秀、物知り。母に同情しているように見える、思春期以降、父に反発しているように見える。犯人であることを否定せず、逮捕以来一言も話さないが、証言台で衝撃の告白をして審理の方向を変える。

☆女弁護士ジャネル
ブレディラムゼイ弁護士の助手として働く。嘘を見抜く特殊能力がある、非常に有能だが、不倫からストーカー行為にはしり、弁護士事務所を解雇された過去あり。ラムゼイ弁護士がマイクの無罪を勝ち取ることしか興味がないのを不満に思う。

☆弁護士ラムゼイ 
やり手の弁護士、ラムゼイ家とは親交があり、ラシター氏の殺害現場に急行するほど夫妻と親しい。息子マイクを弁護して無罪にしようと苦心する。父殺害以来、沈黙を通すマイクにやきもきして、陪審対策を含めて様々な作戦をたてる。 「人は証言台で嘘をつく」と信じている。

ラシター弁護士殺害の真犯人は誰なのか? このリストの中の誰なのか? 
本当に息子マイクの犯行なのか? それとも他に犯人はいるのか? 
殺害の動機は何なのか?最後にアッと驚く結末が用意されている。
証言の反転、そしてまたその証言には裏の事実あり・・・。

キアヌ・リーブスさんの相変わらずスマートで、元気な姿がうれしいですね。
この方は、イングランド、ハワイアン、ポルトガル、中国の血を引いているせいか、容貌もエキゾチックで、ミステリアスです。
アメリカ白人男性によしとされる明快さ、積極的な押しの強さとはあまり縁がなく、黙りこくって、何を考えているのかわからない感じがする時がありますが、そこがまたなんとも東洋的で、日本人には逆に親しみが持てます。
若い頃の田村正和さんのような、一見近寄りがたいけれど、実はシャイでナイーヴ、なんとも神秘的なオーラを持っています。正和氏が、恋敵を殺害して埋葬した土の上に立ったおうちで、恋人と一緒にずっと住み続ける男を演じたのを見たことがあります。
アンチ・ヒーローを演じているのに、ヒーローであり続ける特殊能力を持った役者さんです。
なんとなく似ていませんか?

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