スノー・ホワイト

(C)2011 Universal Studios. All Rights Reserved.

『スノーホワイト』 原題 Snow White and the Huntsman
製作年 2012年/ 製作国 アメリカ / 配給 東宝東和 /上映時間 127分 / 映倫区分 G /
スタッフ:
監督 ルパート・サンダース /製作ジョー・ロスサム・マーサー/製作総指揮 パラク・パテルグロリア・ボーダース
キャスト:
クリステン・スチュワート:スノーホワイト
シャーリーズ・セロン:ラヴェンナ女王/クリス・ヘムズワース:エリック /
サム・クラフリン:ウィリアム /イアン・マクシェーン

『スノーホワイト』――女戦士の孤独

 清水 純子

グリム童話「白雪姫」生誕 200 年を記念して制作されたルパート・サンダース監督の「スノーホワイト」(Snow White and Huntsman,2012)は、「おとぎ話は終わった」と言い切る。
スチル写真の中のスノーホワイト(クリステン・スチュワート)は、黒い甲冑をまとい、右手に剣を、左手には盾を持ち、意志的な厳しい視線を向けるジャンヌ・ダルクのような雄々しい仁王立ちである。

映画「スノーホワイト」は、スクリーンの中でかわいい少女服も着るし、原作に忠実に毒りんごをかじって仮死状態に陥るが、基本的には戦う女戦士として描かれる。
スノーホワイトは、平民の勇士エリックと王子ウィリアムの二人の勇敢な男性の援助を得て、悪い継母ラヴェンナ女王(シャーリーズ・セロン)から王位奪還を果たし、めでたく女王になる。
しかし、原作の白雪姫のように王子との結婚によって立身出世と身の安泰を図る女ではない。
ラスト・シーンで戴冠式に臨むスノーホワイトは、どちらの男性と結ばれるとも結ばれないとも二通りにとれる。
最高権力者になった女にとって、男はもはやサポーター、あるいは道具でしかなく、全身全霊を託す存在ではない。

女が権力の座につくためには、男に守られ、男が身に着ける装飾品であってはならないという認識は、スノーホワイトの仇敵ラヴェンナ女王譲りである。
ラヴェンナは、男に心も体も許すことのない孤独な女である。みすぼらしい捕虜に身をやつし、美貌と魔力で王をかどわかして王妃の座を勝ち取ったラヴェンナの初仕事は、新婚の床で王を短剣で突き刺して自分が最高権力者になり代わることであった。
ラヴェンナに愛する男はいない。
ラヴェンナの忠臣は実の弟であるから、性愛は成り立たず、唯一心を惹かれた美貌の青年の心臓を自らの手で握りつぶすことによって心を惑わす愛を殺す。
ナルシストのラヴェンナは、自惚れ鏡に一人で向かい合うのを至福の時とする。
しかし常に自分の美を讃え、自尊心を守ってくれていたその鏡が、自分よりもスノーホワイトを上位だとみなした時、女王の自尊心はくだける。

嫉妬に狂い、権力に固執する女王は、義理の娘を亡き者にしようとする。
しかし愛のない、人を信じることのできない孤独なラヴェンナは、権力への盲目的な信仰ゆえに自滅するのだ。
シャーリーズ・セロン演じるラヴェンナ女王の毒のある恐怖美がみものである。

この映画つまり現代版「白雪姫」では、スノーホワイトとラヴェンナ女王がパラレルになっている。
眼前に見る若くて初々しいスノーホワイトが、何年かしたら継母のラヴェンナのように権力にしがみつく孤独な女になるのではないか?と考える観客も少なくないだろう。
グリムの「白雪姫」では女性の幸せは愛ある結婚によって保証されるのに対して、映画「スノーホワイト」は、結婚はもはや女性を守るものではないことを暗示する。
華麗なCG(コンピューターグラフィックス)と美女たちで彩られたこのアクション・アドベンチャー大作は、おとぎ話をくつがえす意外にシビアな現代性を提示している。

Copyright © J. Shimizu All Rights Reserved.