ザ・ゲスト


(c) 2013 Adam David Productions

『ザ・ゲスト』 原題: The Guest
督:アダム・ウィンガード 、脚本:サイモン・バレット 
出演:ダン・スティーヴンス、マイカ・モンロー  
製作年 2014年、制作国アメリカ 上映時間100分
提供:ハピネット、ショウゲート、 配給:ショウゲート
公式サイト:http://the-guest.jp/
公式facebook : https://www.facebook.com/theguest.jp
公式twitter :https://twitter.com/TheGuest_movie
11月8日(土)より、シネマサンシャイン池袋他にて公開

ザ・ゲスト』―本当にこわいものはどこに?

                  清水 純子

『ザ・ゲスト』は人間の心の隙をついた巧妙な心理サスペンスである。ハロウインがまじかなある日、長男ケイレブをイラク戦争で失ったピーターソン一家のもとに、若者デイヴィッド(ダン・スティーヴンス)が突然訪ねてきた。

ケイレブの戦友だというデイヴィッドは、端正な顔立ちに鍛え上げた身体を持ち、礼儀正しく、謙虚な物腰である。

軍隊時代のケイレブの写真にはデイビィッドも写っている。ケイレブの最後の言葉「愛している」を伝え、デイヴィッドは涙ぐむ母親の信用を得る。
次に帰還兵にありがちなPTSD(Post Traumatic Stress Disorder: 心的外傷後ストレス障害)の可能性を懸念する父親の機嫌を巧みにとり、デイヴィッドはこの家に居つく。
学校でいじめにあっているコンピューター・オタクの次男ルークを救い、美少女の長女アナ(マイカ・モンロー)をドラッグから遠ざけ、デイヴィッドは一家の守護神的存在になっていく。
しかし、一家の周りにいる人物は次々と変死する。父の会社のライバルの死、アナの友人の麻薬がらみの死が続き、デイヴィッドの正体に疑問を持ったアナは、弟のルークを巻き込んでその素性をたどると、恐ろしい事実が判明する。
救世主のように見えたデイヴィッドのために一家は危険にさらされ、さらなる惨劇に出会う。
どこからともなく現れた謎の美青年デイヴィッドの人間離れした完璧さにまず疑いの目が向けられる。
勘の鋭いアナに携帯電話での会話を立ち聞きされ、調べられていることを知ったデイヴィッドは、恐ろしい本性をむき出しにする。

『ザ・ゲスト』は、デイヴィッドの暗い面を暴く単純なサイコ・スリラーではない。
この映画にはさらなるひねりが存在する。
『ザ・ゲスト』は、異常だが突出した才能のある人物を捕獲して訓練し、洗脳して、ある目的のために、ある陰謀のために役立てようと企んだらどういうことが起こるのか、ある特定の場所にかくまわれているべきものが、なにかの拍子に一般市民の間に紛れ込んだらどうなるのか、その恐怖を描いている。

CID(アメリカ陸軍犯罪捜査司令部)によって救助されたアナが最後に見るのは、救助隊員の中にいるその人の顔である。
死んだはずの人物の瓜二つが現れ、アナは同じようにマインド・コントロールされた人物は無数に存在しうるのかという疑問に背筋が寒くなる。
『ザ・ゲスト』の背景と暗黙のメッセージをよりよく理解するためには、『陰謀のセオリー』(原題:Conspiracy Theory、1997年、監督: リチャード・ドナー、出演: メル・ギブソン、ジュリア・ロバーツ)、『実験室KR-13』(原題:The Killing Room、2009年、監督:ジョナサン・リーベスマン)を合わせて鑑賞するとよい。

また映画『レッド』の題名は“Retired Extremely Dangerous” (引退した超危険人物の略)だが、ジョン・マルコヴィッチ扮する狙撃の名手マーヴィン・ボッグスが『ザ・ゲスト』の危険人物に該当する。
『レッド』DVD版の「ボーナスコンテンツ」は「CIA極秘情報」を公開する。その中では「家族の宝石」、「MKウルトラ計画」、「クレムリンの盗聴」、「オペレーション・キティ」、「グアテマラのクーデター」などアメリカのトップによる過去の極秘情報活動および陰謀計画が暴露されている。

アメリカ軍、極秘プログラム、CIA、民間流出をキーワードとするこれらの映画(DVD)は『ザ・ゲスト』が単なる肝試しのスリラーではないことを教えてくれる。
我々が安閑として過ごしている日常の背後に潜む恐ろしい陰謀と事実を映画は秘かに示している。
映画には大きく分けると二つの見方がある――①表層的:映画をその場しのぎの一過性の娯楽として見る、②深層的:映画が隠蔽している画面外の世界をくみ取る。

『ザ・ゲスト』は表層的に楽しめるだけでなく、深く考えながら分析的に見る二種類の鑑賞法を十分に満たす映画である。

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