tomorrow パーマネントライフを探して


(C)MOVEMOVIE - FRANCE 2 CINÉMA - MELY PRODUCTIONS

セザール賞ベストドキュメンタリー賞受賞
フランスで100万人が観た、驚異の大ヒットドキュメンタリー

『TOMORROW パーマネントライフを探して』
原題 Demain /製作年 2015年 /製作国 フランス / 配給 セテラ・インターナショナル / 上映時間 120分/ 言語: 英語、フランス語/
スタッフ: 監督シリル・ディオン, メラニー・ロラン /製作ブリュノ・レビ/脚本シリル・ディオン/撮影アレクサンドル・レグリーズ/
キャスト: シリル・ディオン / メラニー・ロラン / ロブ・ホプキンス/ バンダナ・シバ /ヤン・ゲール
公式HP: http://www.cetera.co.jp/tomorrow/
2016年12月渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開


『TOMORROW パーマネントライフを探して』――エコシステム(生態系)崩壊が招く人類滅亡

                               清水 純子

エコシステム崩壊➡人類滅亡  
 TOMORROW パーマネントライフを探して』は、「エコシステム(生態系)」崩壊による人類滅亡の危機を描く。「エコシステム(生態系)」は、生物群集とそれを取り巻く環境を一つの機能的まとまりとして捉えたものである。エコシステムでは、生産者、消費者、分解者によって物質が循環している。植物は無機物を有機物へ変換して生産し、動物は有機物である植物を食べて消費し、動物の排泄物と動物の死骸は、菌類が分解して再び無機物に戻す。エコシステムには、無機物、植物、動物の他に、海洋、湖沼、河川、森林、草原、砂漠、都市、地球、宇宙に至るまで様々なレベルが存在する。エコシステムは、これらの構成要素すべてのバランスのとれた循環によって保たれるが、気候変動や人間の環境破壊によって崩れることがある。エコシステムの概念は、英国の生態学者A.タンズリーによって提唱された科学用語だが、最近は経営およびIT分野において、「複数の企業が協力して商品開発や事業活動を行い、消費者や社会のみならず、業界の枠も国境も超えてグローバルなレベルで共存共栄する仕組み」をさす。映画を監督した女優メラニー・ロランは、2012年に科学雑誌『ネイチャー』に載った21人の科学者の「人類滅亡の恐れ」の論文を読み、ショックを受けて、監督、俳優、活動家、ジャーナリストの多彩な顔を持つシリル・ディオンを相棒に加えて、本作製作に乗り出す。これは、子供たちの幸せな未来を願って、フード、エネルギー、マネー、教育に解決策を求めて、ヨーロッパ、アメリカ、インドに取材したドキュメンタリーである。

ばらしいのは前向きの姿勢
 『TOMORROW パーマネントライフを探して』の素晴らしさは、過去から現在にわたる人類の環境破壊の暴挙を検証しながら、決して絶望に終わることなく、新たな解決策を求めて、未来をみつめて、前向きに闘おうとする姿勢である。映画化を思い立った時、メラニー・ロランは妊娠中だった。誕生する息子は、水も食料もオイルもない世界で生きていかねばならないと気づいた時、今のうちになんとかしなければいけないと思ったという。

個人からグローバルな取り組みへ  
 映画は、気候変動、人口増加がエコシステム崩壊の主たる原因だという事実を雄弁に指摘しながら、政治家や官僚の上目線からではなく、一市民の「今の私たちに何ができるの?」という個人の視点から出発する。道や花壇を菜園に変えて、自給自足でオーガニックな食料調達に役立てる主婦たちの努力が紹介され、世界の企業のエコロジー回復の試み、さらに各国の政治と教育面での取り組みがエコロジーの危機を救うという点にまで視野を広げていく――①アメリカのスタンフォード大学とカリフォルニア大学21人の科学者の地球エコシステムの壊滅の論文、デトロイトの工場閉鎖と近郊農業、経済学者ジェレミー・リフキンによる世界的経済危機、エネルギーの保護、気候変動に関する解決策の提案、サンフランシスコの「ごみゼロ」計画、オーランドの地元経済のビジネス連合「バリー」の地域の富と雇用による3倍のファンド獲得、②デンマークのコペンハーゲンの風力発電機建設、バイオマス(再生可能な生物由来の動植物資源)工場建設、プラスチックのリサイクル、ソーラーパネル設置、環境を配慮した建築や都市プロジェクト、③アイスランドの石油危機に端を発した水力発電、地熱エネルギーの開発と成功、2008年の金融危機による政府退陣と市民による新憲法の実施、④フランスのレユニオン島の再生可能エネルギー活用努力、生産体制よりも環境配慮が経済的であるというリールのポシェコ社の信念、⑤英国のトットネスの土地貸出からエネルギーと交通分野にわたる石油依存廃止を目指す運動、ブリストルの地域通貨ブリストル・ポンド創設による地産地消のグリーン・エコノミー、⑥ベルギーのベルナール・リエターの補助通貨、地域貨幣の擁護、ダヴィッド・ファン・レイブルックが提案する偶然性を取り入れた代議員制による民主主義、⑦スイスでは、ヴィール(WIR)銀行のWIR通貨(使用範囲限定の無利子の通貨)による相互貸付システムの提供がスイス経済の安定性へ貢献している例、⑧インドのコタムカムの階級間格差を廃止した村の集会「グラムサバ」 に始まる廃棄物削減、下水道と衛生施設の建設、子供の就学、ソーラーパネル設置の成功、⑨フィンランドのヘルシンキの教育システム改革による成果――など、グローバル規模のエコシステム取り組みを次々と展開する。ロランは、エコシステムの概念を科学の定義にとどめずに、最新の経営およびIT用語のカバーする領域にまで踏み込み、経済、政治との関わりが我々の環境に及ぼす影響を描くところがわかりやすく、啓発的である。

 映画は、若い活力と情熱のうちに、各人が少しずつ地道に努力をしていけば、エコシステム回復のさざ波は大波になり、やがて世界に広がり、人間が作り出した悪循環は改善するという「明日への願い」をこめて終了する。誰もが納得して賛成する、議論の余地のない結末である。

人類だけが絶滅危惧を免れうるのか?  
 しかし、ひねった見方をすれば、人間だけがどうして、以後絶滅危惧種を出すことなく、全人類が手を携えてそれぞれの子孫を地球に残せると思うのか?という疑問を抱かないだろうか。 人間は生き延びるために環境破壊をほしいままに行い、動植物双方において絶滅危惧種を多く出し、抗争や戦争を通じて人間同士でも多くの民族を根絶してきた。その人間が、しかも文明圏で恵まれた部類に属する人がお尻に火が付いた時点でやっとその事実に気がついて、自衛して助かると思うのは、虫がいいと思わないだろうか? 人口が増えすぎた人間の食料になる食肉工場で、満員電車もバーゲンセールのデパートも顔負けの生きた鳥軍団のすし詰めの映像、それに続いて羽を皮をむしられて、機械に頭からつるされた鳥の集団を見させられた時、これらを全部平らげる人間とは、いったい何なのだろうか?と一瞬でも思わないか? 

人間の罪深さが地球破壊の元? 
 映画は、環境破壊の元は、経済と効率を優先させて、急激な行き過ぎた発展と繁栄を嘱望する資本家と政治家のエゴにあることを明らかにする。何も知らされていない一般市民を操って裏で資本家と政治家は利益がらみで結びつき、権力を行使して、発展の名のもとに環境破壊を推進する。いったん吸った甘い汁の味を忘れられないのが人間の性(さが)であり、いつの時代にも変わらない人間の罪深さにあると映画は語る。

 人間は食物を食い荒らしただけでは足らず、今や自分たちを覆っている地球の皮と芯まで喰らいつこうとしている。増えすぎたネズミは、突然群れを成して崖から飛び込み自殺をすることもある。人間だって、自然の摂理に従えば、増えすぎたら全種族が生き延びることを許されるとは限らない。旧約聖書の「ソドムとゴモラ」も栄えた後、風紀の乱れによって神の怒りを買って滅びた。警告の論文を投稿したアメリカの21名の科学者は、さしずめ「創世記」の預言者ロトの一行なのかもしれない。警告を無視した者は町と共に滅び、耳を貸しても振り返った者は塩の柱に変えられ、警告に従って未来だけを向いて歩き続ける少数者だけが救われるのだろうか? たしかに我々人類は、生存の瀬戸際に立たされている。滅亡を自覚するか否かによって、未来の運命は変わるのだろうか?

参考資料
『Tomorrow パーマネントライフを探して』プレスシート セテラ・インターナショナル  2016年  9月

©2016 J. Shimizu.All Rights Reserved. 2016. Oct. 8

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