とらわれて夏

 

『とらわれて夏』原題 Labor Day
製作年 2013年 、製作国 アメリカ 、上映時間111分 、言語 英語、映倫区分 G
配給&宣伝: パラマウントピクチャーズ・ジャパン
監督・制作・脚本: ジェイソン・ライトマン
出演: ケイト・ウィンスレット、ジョシュ・ブローリン、ガトリン・グリフィス
公式 HP: http://www.torawarete.jp/
公式Facebook:https://www.facebook.com/events/487579158013253/?fref=ts
5且1日(木)よりTOHOシネマズシャンテ他にて全国順次ロードショー

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『とらわれて夏』――人は皆とらわれ人である

                清水 純子


『とらわれて夏』――うまい邦題である。
原題は、“Labor Day” (労働者の日) だが、この映画は夏に始まる3人のとらわれ人を描くヒューマン・ドラマである。
「労働者の日」をまじかにひかえた夏、アメリカ東部の田舎町の母子家庭に脱獄囚が入り込み、居座る。
恐ろしげに見えた逃亡犯のフランク(ジョシュ・ブローリン)は実は心のやさしい男で、離婚して孤独なアデル(ケイト・ブランシェット)と父が恋しい13才のヘンリー(ガトリン・グリフィス)を慰め、しだいに心を通わせていく。
フランクは殺人罪で懲役18年の受刑者だが、盲腸の手術後、部屋から飛び降りて逃げ、足を痛めたために隠れ家が必要だった。
とらわれ人のフランクにとらわれたアデルは拘束されるが、フランクは手際よく料理したチリビーンズをさましながらスプーンでアデルの口に運んでやる。
ヘンリーには車のタイヤの交換法を教え、野球の手ほどきもする。暇を見て家の修理と掃除に励み、パイ作りを教えるフランクにアデルは理想の夫を見て、二人は結ばれる。
アデルは、ヘンリーの出産後、たて続けに数回の流産と死産を繰り返し、神経を病んでいた。
そのことが原因で夫は去り、新しい妻と子供を得て新家庭を築いた。アデルは愛を失った悲しみにとらわれて、自宅に引きこもる悲しい女になっていた。
落ち込む母を慰めるヘンリーも思春期を迎えて、男としてのモデルを示す父が必要だった。
父不在の喪失感と女の子への思いにとらわれていたヘンリーの目には、母を支え、女の喜びを与えるフランクは妬けると同時にたのもしい男に映った。

囚人フランクの脱獄つまりとらわれた状態が一時的に解除されたことによって、アデルとヘンリーの心理的閉塞状況、すなわちそれぞれのオブセッションにとらわれた状態も一時は開放され、自由を得て幸福感を味わう。

しかし世間知らずのアデルとヘンリーには秘密を心にかくまうだけの周到な知恵と経験が欠けていた。
ヘンリーは、秘密を心にとらえておけずにガールフレンドにフランクのことをうちあけ、実父と警官に不審がられる行動をとる。アデルは、田舎町の銀行で一度に大金をおろして怪しまれ、鍵もかけない家にフランクを一人残して外出して近所の主婦にフランクを見られる。
アデルとヘンリー自身が心理的に田舎町のとらわれ人であったため、囚人のフランクを匿うだけのスキルと見通しを持ちえなかったのである。

若いヘンリーは、実父の協力を得て、社会的にも心理的にも自立して、とらわれ人の閉塞状況から脱却するが、母アデルはフランクを失ってからますます孤独にとらわれていく。
そんなアデルをフランクと再会させたのは、フランクが母子に教えたパイであった。
成人したヘンリーのパイのレストランを雑誌で見たフランクは、服役後ヘンリーを頼ってアデルを訪ね、再びアデルを腕に抱く。スクリーンには若い頃のフランクの姿がフラッシュバックで幾度かあらわれる。
フランクは子供が自分の子でなかったことから妻と口論になり、誤って死なせたことがわかる。
町の人々は、フランクの中味を知らないのに殺人犯のレッテルにとらわれて彼を危険視する。
とらわれていた檻から逃げ出した手負いの猛獣のように警察から追われるフランクは、偶然の悲劇が生んだ不幸な男であった。
罪をつぐなって、とらわれの身から解放されたフランクは、閉ざされたアデルの心を解き放ち、今度こそ二人とも身も心も解き放たれて幸せになるのだろう。
フランクとアデルの皺がふえた熟年の笑顔に観客の心も和む。

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