The Upside-最強の二人


監督:ニール・バーガー/出演:ケヴィン・ハート、ブライアン・クランストン、ニコール・キッドマン 原作:「最強のふたり」/アメリカ/125 分/英語/カラー/原題:THE UPSIDE/字幕翻訳:稲田嵯裕里 配給:ショウゲート 配給協力:イオンエンターテイメント http://upside-movie.jp
12 月 20 日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー



The Upside-最強のふたり』―-富の公平な分配が呼ぶ幸せ
              
                 清水 純子

『The Upside-最強のふたり』は、2011年フランスの大ヒット映画『最強のふたり』のアメリカ版リメイクである。今回も身体障碍者の大富豪が、刑務所出の黒人青年を住み込みの介護士に雇ったところ、思わぬ友情が芽生えて、二人で手を携えて、より良く、楽しい人生を再び歩み出す、心温まる物語に仕上がっている。

身障者の大富豪とム所出の黒人介護士
フィリップは、たたき上げのビジネスマンだが、教養豊かな紳士である。聡明で
理知的な雰囲気、物事の本質を見抜く慧眼を備え、しかも美術に対する深く広い知識を持つ教養ある億万長者であるから、誰もが一目置くNY財界の名士である。しかし、フィリップは、趣味のパラグライダー走行時の判断の誤りのために、事故を起こして、首から下がまったく機能しなくなっていた。自分では動くことも食事も排泄もできないフィリップの世話をするのは容易なことではない。最愛の妻を癌で失ったフィリップは、身体の不自由に加えて、孤独から気難しい大富豪になっていた。驚くほどの高額を提供する求人広告に山ほどの看護士の応募があるが、どの人もフィリップは気に入らない。それにハーバート大出身の才媛秘書イヴォンヌの牽制が厳しかった。フィリップが気に入ったのは、なんとスラム出身でム所出の宿無し職なし黒人男デルだった。デルは、ろくでなしと見なされて、妻と息子から追い出される苦境にあった。介護経験もなく、上流社会を知らず、マナーも礼儀もわきまえない無教養のデルの採用にイヴォンヌが目をむくのは当然だった。しかし、純粋で前向きで、物事にとらわれず、人生を楽しむデルの陽気さと生命力に、フィリップは次第に心を開き、自分を取り戻していく。

★傷を負う男同
 フィリップとデルは、人種も階級も境遇も全く正反対である。NY最高のエリートと最下層の困窮者の組み合わせである。こんなふたりが気が合うとは到底思えないが、ふたりの男には共通点がある。ふたりとも傷を負った存在だが、そこから何とか脱出しようともがいている点である。フィリップは、途方もない財力によってなんでもお金でかなえられる身分だが、自分の過ちによって身体障碍者になってしまい、人手を借りなければ何もできない男になってしまった。最新の医療もフィリップの身体を元に戻すことはできない。愛妻は亡くなり、意中の女性リリーからも一人前の身体を持たないことから敬遠されて、心にも傷を負ってしまった。デルは、元々恵まれない育ちで、ちゃんとした教育を受けることができず、銃の不法所持というくだらない理由で服役せざるをえなかった。彼自身の資質が劣るわけではないのに、悪環境から抜け出せず、教育熱心な愛妻と秀才の息子から肘鉄を食らう。半信半疑で引き受けた介護職だったが、フィリップはデルにとって救いの神だった。経済状況が好転したデルは、妻子から見直され、父としての立場を守れた。一方、フィリップも無邪気で、人生に真っ向から向かっていくデルの覇気に鼓舞されて、前向きになっていく。

★互いに教師で生徒のふたりの男たち
 財力と教養そして社会的地位のあるフィリップは、無知で未経験なデルに様々なことを教えるが、フィリップがデルの教師役か?というとそうとばかりはいえない。デルはより劣った生活環境にあるが、フィリップよりも人生の処し方を知っていた。それにデルには不屈の負けん気と開拓者魂があった。苦労人で闇の世界に身を置いたこともあるデルは、フィリップが想像できない言動によって、フィリップの生き方を変えてしまったのだから、実はデルがフィリップの教師だったともいえる。犯罪者という社会的ダメージをものともせずに前向きな姿勢を持つデルの人生哲学とその実践において、デルはフィリップよりも一歩先を歩んですらいた。
 それぞれハンディを抱える二人の男は、全く違っているからこそ、弱点を互いに修正して、啓発し合って、ふたりでよい方向に向かっていけたのである。フィリップとデルは、その意味で好敵手だった。フィリップとデルは、お互いに教師であり生徒であると言える。

お金の力
 フィリップとデルの結びつきを可能にして、二人の関係を永続的なものにしたのは、なんといってもフィリップの財力だろう。フィリップが大富豪でなければ、デルを雇うこともできなかったし、デルの家族を救うこともなかった。憧れの文通相手のリリーはフィリップの重度の障害に驚いて去ったが、フィリップが我儘を言っても、人々が集まってくるのはフィリップが金持ちだからであろう。「金の力で買えないものもある」というのは美辞麗句であり、たいていのものはO.Henryがその短編で描いているようにお金で買える場合が多い。当事者は、自分たちの友情や良い関係は金銭抜きだと思っているかもしれないが、良好な関係にはある程度のお金の力が作用するのは事実である。もちろん、健康も心もお金だけでは買えないけれど、お金はその欠点を補助して埋め合わせることはできる。フィリップは、金持ちの道楽のスポーツによって大切な健康を失ったが、財力をうまく運営して、デルを救い、その結果自分も救われたのだから、お金を賢く運用したと言える。お金の正しい使い道によって、皆が幸福になるのはいいことである。フィリップは期せずして、正当に富の分配を図ったのである。この物語が実話だということで、『The Upside-最強のふたり』は、ますます説得力ある楽しい物語に仕上がっている。

©2019 J. Shimizu. All Rights Reserved. 26 Nov. 11 
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