CATS キャッツ 清水

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CATS キャッツ』原題Cats
2019年製作/イギリス・アメリカ合作/配給:東宝東和
スタッフ:監督トム・フーパー / 製作 トム・フーパー、ティム・ビーバン他/ 原作 T・S・エリオット、アンドリュー・ロイド=ウェバー/ 原案 T・S・エリオット、ア ンドリュー・ロイド=ウェバー / 脚本 トム・フーパー 、リー・ホール/ 撮影 クリストファー・ロス /美術 イブ・スチュワート/ 衣装パコ・デルガド/
キャスト:ヴィクトリア--フランチェスカ・ヘイワード/ マンカストラップ--ロビー・フェアチャCATSイルド/ グリザベラ--ジェニファー・ハドソン/ オールドデュトロ ノミー--ジュディ・ デンチ/ バストファージョーンズ--ジェームズ・コーデン/ミスト フェリーズ--ローリー・ デビッドソン/ スキンブルシャンクス--スティーブン・マックレー/ ラム・ラム・タガー--ジェイソン・デルーロ/ ジェニエニドッツ--レベル・ウィルソン/ガス--イアン・マッケラン/ マキャヴィティ—イドリス・エルバ/ ボンバルリーナ--テイラー・スウィフト/ マンゴジェリー--ダニー・コリンズ/ランペルティー--ザニーブ・モーガン/
2020年1月24日 ユナイテッド・シネマ・としまえん他ロードショー


『CATS キャッツ』――夜の路地裏猫の生態

                          清水 純子

 『CATS キャッツ』は、1981年のロンドン初演以来世界中でヒットした舞台版傑作ミュージカルの実写映画化である。ロンドンのウェストエンドやNYのブロードウェイで本場の『キャッツ』を見た人にとってはもちろん、見ることのできなかった人にとってはことさらうれしいプレゼントである

★すばらしい映画化

 まずアンドリュー・ロイド=ウェバー作曲の名曲が次々と美しく力強い歌声によって聞けるのが一番の収穫である。欧米歌手の歌声はつやがあってのびやかで劇場一杯に響き渡る。欧米人の声帯は、我々日本人とは異なると常々思っていたが、確かに違う。あんなヴォリュームのある豊かな音色は、普通の日本人の喉からは出ない。
 欧米の役者は、日本人と声だけでなく体格も違う。ミュージカルはもともと英米で誕生したものだから、欧米人の太く長い頑丈な首と手足が長く立体的な体躯が舞台いっぱいに所狭しと躍動してこそ迫力がある。映画も舞台さながらの躍動感と迫力を備えて成功である。
 さらに、豪華スターキャストの名演技が光っている。ジュディ・デンチの長老猫の貫禄と包容力ある表現力、捨てられた子猫ヴィクトリアの愛らしさ、イドリス・エルバのマキャヴィティの悪猫ぶり、イアン・マッケランの過去の栄光に生きる老猫ガスなど個性あふれる猫たちの集合である。猫の着ぐるみを着ているのに、一目で誰が演じているかわかるのがこの映画化の特徴である。歌って、踊って、笑って、泣いて、愛し合い、憎み合い、かばい合う人間もどきの人面猫たちの一挙一動に目が離せない。ジュディ・デンチの太めの老猫が椅子に座る様は、人間じみているのにいかにも猫っぽくてその見事さに笑ってしまう。ぴくぴくと動く耳と尻尾を駆使して歌って踊る役者の熱演に感服である。

★キャッツに埋め込まれた黒い笑い
 かようにすぐれた『キャッツ』の映画化だが、映像は舞台よりもリアルに映るため、着ぐるみ猫が怖いと感じる人もいると聞く。確かにこの映画の猫たちは、かわいいぬいぐるみの猫ではない。子供たちのアイドル、猫型ロボットのドラエモンにも似ていない。どちらかと言えばジャン・コクトー監督の映画『美女と野獣』でジャン・マレーが演じた野獣の姿を思い出させる。猫の飛び跳ねるダンスは迫力満点だが、子猫ヴィクトリアですらその尻尾はかわいいというよりも時として恐竜、あるいは怪獣ゴジラの尾を連想させる。
 舞台は、1930年代後半、ロンドンのソーホー地区の満月の夜。場末のゴミ捨て場にたむろする猫たちの姿は不気味で当然である。夜行性である猫の目は夜、妖しく光る。魔女の手下としての猫の魔性は夜になると発揮される。鼠だけでなく、ダンスするゴキブリをすばやく捕えてほおばる猫の腕前は夜に光る。人間の赤子に似たうなり声で呼び合う猫のコーラスは夜の静寂を破る。

 映画『CATS キャッツ』の着ぐるみは、期せずして猫のかわいらしさよりも不気味さが目につく結果になったが、猫にはもともと怖く不気味な所もある。猫を可愛いとか、気品があると感じるのは、その人の猫との親和性にかかっている。原作者のTSエリオットは猫派人間だったに違いないけれど、エドガー・アラン・ポーは愛猫をながめながら怖い小説『黒猫』を生み出した。イタリアン・ホラーのダリオ・アルジェントの『インフェルノ』には、悪さをする猫たちを騙しておびき寄せ、袋詰めにして河にドボンと投げ捨てる因業爺様が登場する。化け猫の顔になって抵抗する猫に向かって「おお、嫌か?そうかそうか」とににたにた笑いながら猫たちをたたきこんで袋の口を紐で縛りあげる。許されないことなのだろうけれど、奇妙な爽快感とカタルシスをもたらす場面でもある。この映画も袋詰めにされた子猫ヴィクトリアが路上に放り出されるところから始まる。アルジェントの映画と違って、河に投げ捨てられないだけ運がよかった。野良猫たちに救出されたヴィクトリアがこの物語の口火を切る。大方の人間が眠っている間に展開する猫たちのドラマが『キャッツ』である。E.T.A.ホフマンの『くるみ割り人形』の少女クララのように観客は、夜の到来と共に猫たちの昼間は隠している本当の姿を見る。昼間は猫かぶりをしておとなしくしている猫が、夜は人目を気にせずに真の姿をさらす。猫の知られざる生態は人間にとっては悪夢だが、猫にとっては愉悦である。


 猫は見方によっては可愛いかもしれないけれど、よくわからないゆえに怖ろしくおぞましい面も備えている。映画『CATS キャッツ』は、猫の可愛さばかりでなく怖さを予想外に表現してしまったことによって、一方的な猫寄りの視点を是正して、猫嫌いの人にも許容できる猫の正体に迫っている。製作者が意図したにせよ、しなかったにせよ、明るくもブラックにも笑える映画である。その意味で映画『CATS キャッツ』は、猫好きにも猫嫌いにも堪能できる楽しい映画に仕上がっている。

©2020 J. Shimizu. All Rights Reserved. 11 Jan. 

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